Macintoshを使っているひとならだれでもStuffit Deluxeのことはご存知だろう(これをご覧になっているMacユーザーの方なら、すくなくともこのユーティリティーの一部であるStuffit Expanderはおもちのはずだ)。この有名なユーティリティーはずいぶん前から日本語化されていて、店頭で買うことも可能になっているのだが、私は昔から英語版を、直接Aladdinのサイトから購入して、使ってきた。
わざわざ英語版を使うメリットとデメリットは次のようになるだろう。
メリット | デメリット |
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・価格が安い。どうも日本語版はローカライズを行った業者にぼったくられている気がする ・日本語化にかかる時間を待たずに、最新のバージョンが利用できる。特にシステムのアップグレード直後にメリットは大きい。 ・オンラインですべて取引が出来る。カード番号を送ってからダウンロードすればいいので、買いに行かなくていい。 |
・次のバージョンから日本語システムでは動かない、というような事態になったとき、なんの保証もない。 ・メニューの文字が英語。それにエラーメッセージも、マニュアルも英語。いざというときの、サポートも英語。これは辛い。 |
それなりに便利なところと、不便なところがあるわけだ。潜在的に使用不可能に陥る危険性があるとはいえ、いまのところ特に日本語と英語のシステムの違いから来る不都合には出会ったことはなく、これからもまず大丈夫だろうと考えていた。ところが、最近初めてこのローカライズが原因と見られるあるトラブルに遭遇した。ダウンロードした「BinHex」ファイルが、場合によってはうまく展開できないというものである。
BinHexというのは、Macで昔から使われてきたデータコンバート方式で、マック上で扱われているプログラムやファイルのバイナリーコードをある規則に従って文字に変換するというものだ。この変換を施すとすべて七ビットの文字列になるので、電子メールのような使える文字に制限のある(半角カナは使えないとか、そういう)方法での転送も可能になる。現在ではMIME方式や、バイナリ転送など他の方法が広く使われだしているが、それでも、Mac用のソフトをダウンロードするような時にはこの方式が使われているサイトがまだ多数派のようだ。何しろこの変換をするとただの文字になるので、ウェブサーバーにアップロードするときなども面倒がなくていいからだろう。BinHexによって変換されたファイルには.hqxという拡張子をつける約束になっているが、これを聞けばあのことかと思い当たる方もおられるかと思う。
さて、このトラブルが生じたのは、OS8対応のStuffit4.5になってからしばらくしてからである。ダウンロードしたhqxファイルが、いつものように自動的に変換されなくなってしまったのだ。最初は何かの都合で自動変換しなかっただけかと思ってStuffit Expanderにドロップしたり、Stuffit Deluxeで開いてみたり、あるいは転送に失敗したのかと思ってもう一度ダウンロードしてみたりしたのだが、すべてうまく行かなかった。
ファイルがもともと壊れているということなのかなあ、それだったらしょうがないなあ、とあきらめ交じりの心境で、試しにテキストエディタでこのファイルを開いてみて、やっと理由がわかった。hqxファイルの最初の部分、普通「(This file must be converted with BinHex 4.0)」と書いてあるところが、「(このファイルは BinHex4.0 で変換される必要があります。)」と日本語化されているのだ。現にここを(おそるおそる)英語で書き直してみると、なにごともなかったかのように展開が完了する。私は思わず頭をかかえた。
つまり
(1)Stuffitはこの「This file must be ..」というヘッダを読んで「BinHexだな」と判断しているのであって、他の文章では判断できないということ。
(2)どこかに日本語化されたメッセージ「このファイルは…」を生成するBinHexコンバーターがあること。
を意味する。(1)も結構間抜けなのだが、(2)は噴飯ものである。なにしろ、この謎のコンバーターで変換されたファイルは、タダで配りまくられたせいで世界でもっとも普及している(MacOSにも付いてくる)Stuffit Expander英語版では絶対に展開できないのだ。
それにしても、同じ環境で使っている人が私一人とは思えないので、ソフトをダウンロードできないという苦情や、その解決策がウェブ上などでもっと見られてもいいようなものである。想像になるが、日本語版のStuffitを使っていればこの日本語版BinHexは何の問題もなく展開できるのではないだろうか。とすればこの「謎のコンバーター」はStuffit Deluxe日本語版ということになるが、なにしろ上記の理由で私は日本語版を持っていないものだから、確認できないでいる。
インターネットは、標準こそ正義という世界である。そこに、旧バージョンや他言語バージョンでは手も足も出ない変なローカライズを施した謎のコンバーター(いまはStuffit 日本語版とは決めつけずにおこう)のしたことは、許しがたい無法としか言いようがない。今回の問題はテキストエディタでカット&ペーストを施せば解決するとはいえ、日本語圏以外のユーザーのことを考えると悪質だと言える。早期の改善を要求するものである。