あまり科学的ではない相対論入門

 相対性理論なのだ。相対性理論だったのだ。いやいや。どうもおかしいと思っていたら、相対性理論が足りなかったのだ。
 ちょっと仕事に関係することで計算をしていたのである。結果が事実と合わないので何度も計算をやり直してみたのだがどうしても合わない。よくよく考えてみたら相対論を考えに入れた計算をしなければならなかったのだ。これだけではなんのことだか関係者以外には分からないと思うのだが、私が馬鹿なことをやって一日無駄にしたと思ってもらえるとありがたいです。

 でも、その相対性理論について、仕事中にネタを拾ったので書いてみよう。このことに気がついた人が私の他にだれもいないとは到底思えないのだが、少なくとも私は他で見たことがないので、ひょっとしたら凄い思い付きかもしれない。前回に続いてわりと固めの話になってしまうが、義務教育ではないのでついていけない人は放っておこう(嘘です。ごめんなさい。読んでください。面白くしますから)。

 E=mc2という超有名な式がある。余談だが、イー・イコール・エム・シー・スクエアと読むとかっこうよくてよろしい。これは、質量とエネルギーの関係を表した式で、相対論関連で出てくる式の中では一、二を争う簡単な式だ。質量とエネルギーの関係、もし質量をエネルギーに変換できたらどれくらいの価値を持つかという、いわば両者の相場のような式である。1ドルを120円に変換するように、この式を使って質量をエネルギーに換算することができる。
 どうやってこの式を使うかというと、エネルギーEはジュール、質量mはキログラム、光の速さcはメートル毎秒の単位をそれぞれ使って、あとは数字を計算すればよい。たとえば、一グラムの質量がどれだけのエネルギーに相当するかというと、m=0.001、c=3.0かける十の八乗なので、E=9かける十の十三乗ジュールということになる。ジュールではちっともピンとこないのだが、1ワットは毎秒1ジュールのエネルギーということなので、百ワットの電球なら9かける十の十一乗秒、つまり三万年間つけっぱなしにできるということである。やはり全然ピンと来ない。ええと、たとえば先月の私のアパートの電気使用量は131kWhとある。つまり、131×十の三乗×3600ジュールである。これで計算すると一グラムの質量で、二万年分の私のアパートの電気使用量を賄えることになる。私の生活規模が百ワットの電球と大差ないことに気がついて呆然としている。

 呆然としてなにを書こうとしていたのか忘れてしまったが、要するに1グラムからすごいエネルギーが出てくるのだ。しかし、まあこれは絵に描いたモチであって、残念ながら今のところ目の前の一グラムの質量を完全にエネルギーに変換することなどできないのである。これに近いことで現在実用化されているのは、ウランなどの非常に重い元素を軽い元素に変換する反応(核分裂反応)を利用した発電がせいぜいで、加えて制御できない爆発的な反応(つまり、爆弾)として水素をヘリウムに変換する反応(核融合反応)があるきりである。これらの反応では、質量のうちわずかな部分だけがエネルギーに変化するだけである。大部分はそのまま質量として残る。
 ところで、これらの反応を、反応の前後で原子核の質量がちょっと変化する、その質量をエネルギーに変えているのだ、と覚えている人も多いと思うが、これは実は話が逆であって、原子核が内部に貯えていたエネルギーを放出する、その放出されたエネルギーが余りに大きいので、反応の前後の質量の変化という形で目にみえている、と考えた方がよい。乾電池を使い切ったら軽くなった、というようなものである。われわれがやっていることは、自然に用意された電池を使っているだけであって、残り滓をエネルギーに換えるような高級なことをやっているわけではないのである。

 さて、相対性理論によれば、物体の持つ全エネルギーは次のようにあらわされる。

E2=(m0c2)2+(pc)2

 右辺の二つ目の項が、運動エネルギーをあらわしている。物体が止まっているときには運動量pはゼロなので、式が簡単になって、「E=m0c2」になる。mにゼロがくっついているのは、静止質量という意味なのだが、これは深追いはやめにしよう。つまりどういう意味の式なのかというと、物体のエネルギーは、物体が止まっているときに持っているmc2だけのエネルギーに加えて、運動エネルギーがあって、合計はそれを足したものではなくてそれぞれ二乗して足して平方根をとったものになる、ということである。いや、別にわからなくてもよろしい。ここだけの話だが、わたしもどうしてそうなるのかはいまいちわかっていない。
 で、この式を見てひらめいたわけである。もし、物体の持つ運動量をエネルギーに変えることができたら凄いことになるのではないか、と。つまりpcであるので、これに沿って計算してみると、運動量pはキログラムかけるメートル毎秒という単位になるから、重さ100グラムの球が時速150キロで飛んでいると、p=0.1かける150わる3.6ということになる。つまり、p=4.2kgm/sである。これにcをかけるとエネルギーになるわけで、結局時速150キロのボールは、1.2かける十の九乗ジュールのエネルギーをもつことになる。さきほどの一グラムの質量ほどではないが、これはかなりのものである。私のアパートなら三ヶ月分くらいだろうか。それがピッチャーの投げたボール程度に詰まっていることになるわけである。

 もちろんこんなうまい話はないので、これも結局画餅なのである。運動量をそのままエネルギーに変えることはできないのだ。大砲で弾丸を打ち出すように、物体にエネルギーを加えて加速する(つまり運動量を持たせる)ことはできるが、残った大砲には、それと同じだけの反対向きの運動量が、いわゆる反動だが、必ず発生しているので、運動量そのものを消してしまうことはできていないのである。運動している物体を、他の物体で受け止めることなくぴたりと止めてやらなければならないわけだ。こんなことはいまのところできない。どうやってやったらいいのか見当もつかない。目の前にある1グラムの質量と同じで、エネルギーに変換する方法が見つからなければ、なんの意味もないのである。

 それにしてもこんなことを書いてしまって、いよいよトンデモさんの仲間入りをしてしまったような気がしてならない。間違ったことは書いていないつもりだが、現役科学者として非常にマズいのではないだろうか。ある日この文章が消えていたら、なにか良くないことが私の身の上に起こったのだと思って、そっとしておいて欲しいと思う次第である。


 上記において、やっぱり計算からして変である、という指摘をいただきました。rest mass energyを考えに入れるべきではないか、というご指摘です。つまり、

E2=(m0c2)2+(pc)2

であって、

E=pc

ではない、という意味です。100グラムのボールのm0c2は9×1015Jということになるので、ほとんどその総エネルギーは質量エネルギーだけで決まっていることになります。このときは非相対論的計算で出てくる運動エネルギー、mv2/2になります。
 では相対論的な(つまり非常に高速の)物体を考えるとどうかというと、電子のm0c2は511keVなので、それより十分大きい、たとえば8GeVのエネルギーを持つ電子を考えると、このときはほぼ静止質量の総エネルギーへの寄与分が無視できて、E=8GeVとなるわけですが、この8GeVの電子を作るために必要なエネルギーもやはり8GeV(もちろん効率がありますから、本当はそれよりずっとたくさん)なので、この式自体に特殊な意味は生じないことになります。
 上のタワゴトになにか意味があるとすれば、もし、質量をエネルギーに換えるように、運動量をエネルギーに換えられたとしたら、その変換定数はcであるはずだ、というようなことでしょうか。そんな方法は見つかりそうにない、という点では同じことなのですが。

※この文章は、上付き、下付き文字を表す<sup>、<sub>タグを使っています。古いブラウザでは正しくお読みになれない可能性がありますが、ご存知の方にはおなじみの例の式を書き下しているだけですから、アレのことだなとお考えの上、ご了承くだされば幸いです。また、数式の意味がわからないからといって文章の内容理解に支障は出ない、と思います。すいません。


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