赤ちゃんの引き出し

 取っている新聞に「はがき通信」というコーナーがある。最終面、テレビの番組表が載っているページに、読者からの投稿が短く掲載されているのだが、新聞の一般的な読者投稿欄とは違って、中身がテレビへの意見、要望に限られる。投稿の内容はというと、概してくだらない。いや、くだらない、と断じてしまっては失礼に過ぎるというものだろうが、「『名探偵コナン』は非現実的だ」とか「『伊東家の食卓』の賞金の配分はおかしい」とかそういう意見なのであって、あまり深刻に論じるべきものではないのだ。

 もっとも、テレビなどというものはそもそも気楽にみておればいいものであって、そこへの意見もくだらなくて、まあ、モトモトというか、ふさわしいところかもしれない。だいたい、テレビ番組への要望があったとして、それを新聞社に書き送ってしまうというところがよくわからない。陰口と言ってはよくないが、井戸端会議に近いイメージでとらえるべきものなのだろう。何か書きたいのであり、その気持ちはよくわかる。

 そんなこんなで、今日はどんな意見が載っているかと結構楽しみに読んでいるのだが、かつて「ちゅらさん」というドラマが放映されていたころ、載っていたハガキに、こういうのがあった。

 ドラマに主人公が産んだ赤ちゃんが出てきたが、あれは新生児ではなく、三ヶ月くらいたった赤ちゃんだ。リアルでない。たいへんよろしくない。

 無茶なことを言うなあ、と思った。確かにそうなのかもしれないが、新生児を朝の連続ドラマの撮影に貸してもらうのは、大変だろう。この番組は、総集篇を放映していたので私も見たのだが、何というか、ドラマはドラマとして、細かい矛盾点というか、リアルでないところは「心の目」で修正して見るべきなのである。

 しかし、最近自分に子供ができて、つい先日一ヶ月を越えて、呼び名が「新生児」から「乳児」に変わったところらしいのだが、そういう赤ん坊を見慣れてみると、確かに、テレビに出てくる赤ちゃんを見て驚いてしまうことが多のだ。すなわち「でかい」ということである。顔も体も、なにもかもでかい。ウチの子がミニチュア・ダックスフントとすると、ピレネー犬くらいでかい。いやそれは言いすぎだが、とにかく一回り以上大きくて、太っていて、ほっぺたがぱっつんぱっつんしているのだ。

 ほんとうに、今まで気にもしていなかったのだが、こうして見るとテレビには赤ん坊がいっぱい出てくる。ドラマはもとより、バラエティ、おむつなど赤ちゃん用品のコマーシャルなどなど、扱われかたも多岐に渡っているのだが、どの子もどの子も、恐怖を感じるくらい、大きいのであった。先日お宮参りの模様を報道されていた「愛子さま」さえも、三ヶ月だったそうだが、すごく大きい、と思った。

 思うに、今までの私には「赤ちゃん」という引きだしに写真が一枚、入っているきりだった。それが今は違う。我が子の写真が、ぎっしり詰まっているのである。投稿者がどういう人だったかは覚えていないのだが、おそらく彼女の家でも最近赤ちゃんが生まれたのではないか。そして、新生児というものは、考えてみれば、その家族以外にはほとんど姿を見せない、幻の存在とも言えるのである。

 とまあ、今回はどうにもこれだけの話であり、それだけのことなのだが、まあその、こんなのが書けるのは今だけでもあるので、あとで読み返してみたときにどう思うかをオミットして書いてみた次第。人間、なにごとも経験だしな。


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