嗚呼団子四兄弟

 ペナントレースも五月に入りまして野球の春阪神の春もたけなわであります。対巨人開幕から一引き分けのあと五連勝負け無しと、全国三千万人弱(推定)の阪神タイガースファンの皆様にはご同慶の至り。その他のチームファン、野球以外のスポーツファンの皆様におかれましても、いやなにこんなことは長くは続きませんからご安心を。おそらくこの五月一日の試合、哀れ巨人を四位に叩き落とし単独首位二位との差が三ゲームなどという状態がピークではないかと思って慌ててこのことを書いておく次第であります。また今年もいい夢を見れました。阪神ファンをやっていて本当によかった。星野監督、夢をありがとう。感涙にむせびつつ昼間から酒を飲んでおります。

 ここでもうすっかり私のモチベーションは燃焼しつくし灰になったと言っても過言ではありませんので、終わってもよいのですが、それだけでは黄金週間中読みに来ていただいた皆様に申し訳ありませんので、灰の中から不死鳥のようにもう少し続けます。実は今日(五月二日)、スポーツ新聞の記事で「二位以下は五位までダンゴ4兄弟」というような記述があって、ふと思ったのであります。古いと。これからも性懲りもなく未来永劫ダンゴといえばn兄弟なのかと。しかしながら「おかあさんといっしょ」というNHK教育の番組の中にはいまだに「だんご3兄弟 あっという間劇場」というコーナーがありまして、私は子供と一緒に結構真剣にあっという間に始まっていたりしますものですから、現役の子供達には別に古くなっていないのかもしれません。いやあ、歌のお兄さんとお姉さん、新しくなりましたねえ。ふうかちゃんとうーたん(「いないいないばあっ」)にも驚いたけど、変わるときには変わるもんだなあ。新しいお姉さん、歌声に協調性がないなあ。

 幼い子供が周囲にいない人をおいてけぼりな話をしてしまいました。立って半畳寝て一畳「イチジョウマン」の話もしたいんですが、まあよろしい。「だんご3兄弟」といえばというお話であります。この歌が流行したとき、ちょっと話題になったことがありまして、覚えていらっしゃいますでしょうか。だんご3兄弟バブルに沸き返るだんご業界において、一抹の不安といいますか不満がありました。我々が普段作っているアレと、佐藤雅彦氏が有名にした3兄弟なアレとは微妙に違うというのです。すなわち、スーパーのパンなんかが置いてある棚に並んでいるパック入りだんご、よくみかけるだんご達は、本当のところたいていが三個ではなく、四個組なのですね。

 では三個組で作ればいいじゃないか、と思うわけですが、そうはいかん(かった)らしいです。わたくし、知らなかったのですが、あれら量産だんごは、機械で一括して作るのだそうです。人間の手間が最も大きなコストになる世の中でありますから、まず三個なり四個なりダンゴを作り、それからおもむろに串に刺していてはとてもあの値段では提供できません。いやどうだかわかりませんが、きっとそうです。ダンゴ作り機械は、こんな構造をしております。一方からダンゴの材料を入れる。もう一つの入力スロットから串を入れます。そうすると機械の中でダンゴがうにうにと練られて、それから串の周りに○○○○と一体成型されます。つまり、現在のだんご4兄弟は、年齢差なんかなくて、四つ子、それも一卵性の四つ子らしいです。なるほどそれで合点が行く。あのダンゴ、串から剥がれにくくてイライラするものですが、それも無理はない、串は彼らにとって仮の宿りではなく、彼らの故郷、彼らの母親、彼らの胎盤であったのです。

 ダンゴの出自はまあよろしい。ともかくそういうわけで、量産だんごを歌に合わせてトリプレットにするのは容易なことではない、のであります。○○○○の形を作るカナガタからして丸三つの形に作り直さなくてはなりませんし、そうするとダンゴの大きさがやや大きくなるわけですから、キカイの幅が足りないなんてことも起こって参ります。ダンゴ大型化の弊害は他にもありまして、重力に逆らって形を維持するためにどうしたって粘性を大きくせねばなりませんし、放熱の効率が悪くて固まりにくく(古くなりにくくはなりそうですが)、歯でもって串から引っこ抜く際の抵抗だって大きくなります。いいことは一つもないのであります。いや、どうだかわかりませんが、きっとそうです。

 それに体積だって四つが三つになると大きくなります。わたくし、これも今気が付いたんですが、串にダンゴを刺します。串の長さは決まっていて、手で持つ部分の長さも決まっているとします。串の先から手で持つところまで、仮に百ミリとして、この間をダンゴで埋める、といたしましょう。いや、そういうものかどうか知らないで書いておりますが、まあそんなもんでしょう。串の長さが妙に長かったり、短かったりすると見栄えがしませんし、第一またキカイを作りなおすのはコリゴリです。

 そういう条件でダンゴを作ると、これはもう、メーカーとしてはダンゴは多ければ多いほうがいいんですね。直径百ミリの大きなダンゴが一つ、これはもうなんというかダンゴというよりリンゴ飴のようなアレですが、この体積は五二万四千立方ミリメートルあります。いやはやなんだかとてつもない体積でありますが、要するに五二四ミリリットルであります。ああよかった。しかし、牛乳パックの小さいほう一個分でありますから、まあ、とてつもない体積なのでしょう。

 これが二個ダンゴになりますと、体積は一つあたり六万五千立方ミリメートルに急落いたします。二つ合計でも一三万一千立方ミリですから、一個ダンゴの四分の一しかない。この後も、ダンゴの体積はダンゴが多くなるずつ、この調子で小さくなってゆきまして、三個になると三つ合計五万八千立方ミリメートル、四個になると三万三千立方ミリであります。仮に十個刺さった、数珠のようなダンゴを作りますと、体積はわずか五千二百立方ミリでよろしい。これは五ミリリットル、小指くらいの体積ですから、一個ダンゴぶんの材料で百本作れるわけですが、いやいくらなんでも、こんなダンゴ棒では誰も買いますまい。

 とはいえ、そういうわけで四個ダンゴは三個ダンゴの一六分の九の体積でよいことになります。今まで四個ダンゴを作っていた工場が3兄弟ダンゴを作るようになった場合、一六個作れていた材料で九つしか作れません。これは、今どきなかなか、辛いことであります。ずいぶん回り道をしたような気がいたしますが、そういうわけで、だんご3兄弟には業界をあげて渋い顔だったわけですね。いや、だんごといえば三個組が普通のような気が、実はわたくしもいたしますから、もしかしてこのへんを踏まえたうえで、だんご産業革命期のキカイはあえて四個組をスタンダードとして規定したのかもしれません。いや、どうだかわかりませんが、そうだと面白いなと思います。

 えー、以上のようなところで、この目的のない文章も終わりに近づいて参りました。だんご3兄弟なり4兄弟なり阪神タイガースなりの、今後の発展を祈念して締めくくりとしたいと思います。ところで、今気が付きましたが、だんごというのはそれ自体は味なんて無くて周りにかかっているアンコなり「みたらし」なりが美味しいわけですが、ということは大事なのは体積ではなくむしろ表面積であります。四個から三個に減ることでこの表面積なり体積と表面積なりの比はどうなるのかというと。

 いつものように読者への宿題としてナアナアと去ってゆくのであります。もちろん、ダンゴだけにハナよりそのつもりでありました。いやいやいや、どうだかわかりませんけれども。


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