ビデオポッドキャストというものがありますが「テキストポッドキャスト」というのはいかがでしょう。
現行のiPod touch(たぶんこれまでのiPodも)には「保存しておいたテキストを表示」という機能はないようです。あればけっこう便利だと思うので、アップルはケチケチせずにつけたらどうかと思いますし、メモ機能などと同様にそのうちなんらかのかたちで実装されるかもしれませんが、とりあえず今はないです。もちろん、いまや誰もが持っている携帯電話というものがあって、文章はそっちで読めるんだからそれでいいとも考えられます。しかしまあ、iPodには内蔵の保存容量が大きいという利点がありますし、それにiPod touchのディスプレイは大きくて、かなり「電子ブック」に近い使い方ができるのではないかと思えるわけです。
で、いろいろ試していたわけですが、結論として、現状でも、けっこうそれに近いことができます。
まず、ボイジャー(http://www.voyager.co.jp/)という会社の「T-Time」というソフトウェアがあって、これはかなり昔からある、テキストを読み込んで縦書きページ形式に整形して表示するビューワーです。私も書きかけの文章のチェックに以前からよく使っていたのですが、このソフトウェアには、もともと、携帯電話やデジタルカメラ、iPodでの閲覧向けに文章を画像として出力する機能があるのです(というよりむしろ、今回の記事全体が、T-Timeの当該機能を使ってみた、という話になります)。つまり、T-Timeを使うとテキストを一組のJPEG画像に変換してくれるわけですね。画像書き出しの機能を使うにはT-Timeの有料版を買う必要がありますので「試してみてください」とは言いにくいのですが、今回、例文を画像にしたものを二枚ほど下に出してみましたので、これで感じをつかんでいただけると思います。
手順としてはまず、どこかからダウンロードしたテキストファイルをT-Timeで読み込み、iPod touchの画面サイズ(320×480)を指定して整形したのち、画像として書き出します。指定したフォルダの中に画像ができますから、次にそれをiPhoto(アップルが「iLife」の一部として販売している写真管理ソフト)で読み込みます。このとき、読み込んだ文章ごとに「アルバム」(iPhotoの機能で音楽におけるプレイリストのようなもの)を作成し、中身をファイル名で逆順に並び替えておくと感じがいいです。これはtouch上でページを「めくる」方向が、縦書きの文章を読む方向と反対方向だからです。ここまで準備をしておけば、あとはiPodをつなぐだけで、iTunesを通じて作った画像ファイルが自動的に転送されます。出先でiPod touchの「写真」モードで当該アルバムを選び、アルバムの中の最後の画像を最初に開けば、iPodで文章が読んでゆくことができるというわけです。
文章をわざわざ画像にして表示する、そんなアホウなとみんな思うでしょうし私もちょっとそう思いますが、iPod touchが持っている写真ビューワーの「画面を指で払う(フリックというらしい)と次の写真が見れる」という効果は、紙の本をめくっている感覚に非常に近くて、本当は文章を読むために写真ビューワー機能がついているのではないかと思うくらいです。今回、文字サイズは10ポイント、33文字×13行でページを組んでみましたが(人によっては文字がやや小さく感じるかと思いますが、私はいちおう、このくらいなら大丈夫です)、この文字組みで、私の雑文一本が一〇枚くらい、文庫本一冊が四〇〇枚くらいの画像になるようですね。画像のファイルサイズとしては1冊分で15メガバイトくらい。音楽2〜3曲分がそれくらいのサイズなので、まあiPodには無視できる大きさです。あと、この画像化したテキストは、基本的にページごとに独立したJPEG書類なので、アルバムの組み方によって簡単に表紙や挿絵なんかも入れられるというのも、場合によってはちょっとうれしいところです。
欠点としては、これがけっこう致命的かもしれないのですが、しおりに相当する機能が存在しないところで、つまりiPod touchの写真ブラウザは、一つのアルバム内のどの写真を見ていたかを、覚えておく機能がないのです。読んでいて、聴いている音楽のボリュームをいじろう等と思ってふとホームボタンを押すと、次に写真ビューワに戻ったとき、前にどのページを見ていたかわからなくなってしまいます。ページ数でも容易には検索できないので、しおりがまったく存在しないときに紙の本でそうするように、今何ページを読んでいたかを覚えておいてあとでそのページを探す、という面倒な手順を踏まなければなりません(ページ数自体は、JPEG画像の下のところにT-Timeが自動的につけてくれます)。ほかのアプリケーションを使わずに単なるスリープ→復帰ならもとのページに大丈夫戻って来れますから、同時に音楽を聴くのをあきらめるか、あるいはそれこそ雑文程度の長さの短文に限るのがいいかもしれません。長い文章の場合はそこそこの長さの章ごとに分けてアルバムを作っておけば少しはましかも。
さて、しおりの問題はともかくとして、文章の転送は面倒ではないにせよ、毎日できるようなことでもないので、重要なのは自動化です。
・RSSをチェックしてブログやニュース(雑文も)などから新しい文章を取得する。
・取得したテキストファイルをT-Timeで読んでJPEGで書き出し、それをiPhotoで読み込んでファイルごとにアルバムをつくり逆順に並び替える。
・iTunesから転送する。この際、もう読んだ文章の、古いアルバムと中の画像を消去できると感じがいい。
これを行うスクリプトを書いて、自動化しておけば、毎日電車の中で音楽を聴きながら最新の文章が読めるというスンポーです。T-Timeが噛むところ以外はポッドキャストのしくみに近いので、それで「テキストポッドキャスト」という話になるわけですね。使っているのがウィンドウズの場合は、ええと、iPhotoがないわけなので写真の転送とアルバムの作成がどうなるのかよく知らないのですが、たぶん、同じことは容易にできるのではないでしょうか。少なくともT-Timeはウィンドウズ版もあります。
ただ。考えてみるとtouchには無線LANで接続する機能があるので、ネットにつながりさえすればもとの文章を直接ブラウザで読めるんですよねえ。やっぱりいらないかなテキストポッドキャスト。