すごいぞ柔道二五〇段

「剣道三倍段」という言葉とどこで出会ったのか、いずれなんかのまんがだろう。まんがだから、誰かが「こうである」と言えばそれが正しいのだということになって、本当にそうなのか、正確には二・八倍段プラスマイナス〇・一倍段であるということが実験によって確認されたわけではないと思うが、とにかく三倍である。これは「剣道は剣を持っているということだけで相当に有利であり、柔道や空手が剣道と互角の戦いをしようと思うと相当の腕前がいる。具体的には剣道初段に対しては柔道三段、剣道二段に対しては柔道六段と、三倍の段位をもつ人間でなければ歯が立たない」ということだと思われる。

 しかしよく考えるとこれはちょっと面白い主張で、初段というのは真剣にやっている中学生くらいだそうなので、高校生くらいの真面目に剣道をやっている人には、柔道ではちょっとかなわないということなのだと思われる(柔道には八段くらいしかないそうなので)。ただ、それはそれとして、中学生くらいの剣士に柔道の高段者がどうやって勝つのか、そこには興味がある。真剣白刃取りではないが、なんかうまいことあしらってぶん投げるのだろう。

 ここで考えてみよう。これと同じことがあらゆる武道武術武器武装について言えるはずである。弓道はどうか。遠いところから次々矢を撃ち込まれてはどうしようもないから、たぶんさらに柔道に不利、たぶん「弓道五倍段」くらいはありそうである。さらに速射性と威力の高いライフルとかだとかろうじて初心者にはなんとか勝てなくはないみたいな感じの「銃道十倍段」くらいだろうか。相手が強くなるほど倍数は増えてゆき、戦車道五〇倍段とかステルス戦闘機一五〇倍段とか核弾道ミサイル二五〇倍段とかになるわけである。

 などと根拠のない数字を思いつきで口走ってしまったが、柔道の達人が核ミサイルに勝つところは一回見てみたい。なんか初心者が震える手でミサイルの発射ボタンを押すわけである。ミサイルが柔道の達人めがけて飛んでくる。相手はマッハ一〇くらいあるかもしれないが、柔道二五〇段である。そんなものはものの数ではない。数だけなら二五倍もある。戦ってきた時間が違う。ジャンプ一番達人はその袖口をひっつかむと、ぶん投げる。背負い投げとか釣込腰とかそういった技である。きれいに空中で一回転しあえなく地面に背中から叩きつけられたミサイルはぐへえとかそんな感じの情けない声をあげてその場にのびてしまう。あっぱれ柔道の勝利だ。

 いや違う。柔道二五〇段はまだこんなものではない。まだなにひとつ、勝負がついてなどいない。柔道は走り出す。走り出す。敵味方を隔てる大洋もなんのその、大陸間をマッハ二五〇で走り抜ける。そのままの勢いでミサイルが発射された地下サイロまで走り込む。装甲車両を含む守備部隊も分厚い隔壁もちぎっては投げちぎっては投げして司令室に駆け込み、そこであまりの事態に呆然としている核ミサイル初心者を見つけるとおもむろに肩口をむんずとつかむや大外刈りとかで倒す。あっさり一本。柔道の勝利である。参りましたと核兵器。すごいぞ柔道。

 本当に一度見てみたい。柔道二五〇段、どこかにいないものか。


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