[佐藤大輔作品紹介]
ここでは、氏の作品群について、内容の紹介と簡単な解説を加えています。未読の方の参考になれば幸いです。
逆転・太平洋戦史
佐藤大輔名で発表されたたぶん最初の作品(※そうではなかった。後述)。一時代を築いたこの分野、いわゆる戦略シミュレーション小説の最も初期の作品の一つである。太平洋戦争の歴史改変を題材に独立した内容の短篇を7篇収めている。各作品に前書きとして史実解説が書かれており、この方面にほとんど知識がなくても読める構造になっている。真珠湾、ミッドウェイ等の経過がこうなっていたらというテーマを扱う作戦篇と、重戦車、ジェット戦闘機といった兵器の存在を仮定する兵器篇にわかれている。同じようなテーマを扱う作品群のなかでは最も初期に発表されただけあって、比較的メジャーなテーマを中心に扱っているといえる。
現在、出版元(?)の倒産に伴って絶版。加筆修正を加えたものが「目標、砲戦距離四万」として徳間書店から発売されている。逆転・太平洋戦史2
太平洋戦争の歴史改変を題材とした2作目の作品。それぞれが独立した「歴史改変」を扱っていた前作とは異なり、一本の歴史の流れに沿った連作となっている。各作品の前書きに史実の解説があるという形態は前作を踏襲している。最も大きな逆転要素は珊瑚海海戦で日本軍がポートモレスビー攻略を成功させていたら、というもので、珊瑚海・豪州をにらむ拠点としてポートモレスビーを確保した日本軍に対する米軍の艦隊夜襲を、大和等の水上砲戦力投入で退けるというストーリー。作品の最後に3つの結末が用意されており、読者がそのうち一つを選べるという趣向もあって面白い。
現在絶版。加筆修正を加えたものが「戦艦大和夜襲命令」として徳間書店から発売されている。逆転 信長軍記
戦国時代を扱う仮想戦記。太平洋戦争を扱った前2作とは違い、解説抜きの普通の長篇小説として書かれている。信長が本能寺で死なず、その後の日本統一を成し遂げる仮想の歴史を扱ったもので、明智光秀を討った信長が、秀吉の九州征伐に乗じて謀反を企てた柴田勝家軍に、辛くも勝利するまでが描かれる。
現在絶版。加筆修正を加えたものが「覇王信長伝」としてKKベストセラーズから発売されている。また、さらにその加筆修正版が中央公論社から出版された「信長征海伝」である。この再刊については別項参照。《仮想・太平洋戦史》目標、砲戦距離四万
「逆転・太平洋戦史」として出版されていたものに2篇の書き下ろしを加えたもの。「作戦篇」「兵器篇」に別れていた原本に新たに「幻想篇」が設けられ、富嶽を扱った作品など空想性の強い数篇を分類し直してある。また加筆分には、超大和型戦艦同士の砲戦を描く、思い切った設定の作品がある。
《仮想・太平洋戦史》戦艦大和夜襲命令
「逆転・太平洋戦史2」として出版されていたものに1篇の書き下ろしを加えたもの。書き下ろし分は、のちのレッドサンブラッククロスシリーズの先駆けとなる、日本対ドイツのインド洋における戦艦同士の砲戦を描いた「戦艦フリードリヒを撃沈せよ」。撃沈に至る経緯は英国のビスマルク追撃戦を彷彿とさせるもので、残念ながらのちに正篇として描かれた同戦艦撃沈のエピソードとはやや異なる。世界設定も少し異なるようだ。
分断された日本と、その統一にいたる戦後を描いた3部作。第二次世界大戦末期、レイテで起こった軍事的な奇跡をきっかけに、太平洋戦争そのものの行方ではなく、その後の戦後史がいかに変化するか、そして北海道の北半分から向こうに日本人が作ったもう一つの共産国が存在することで冷戦期および冷戦後の世界がどのように変化するかに主眼を置いて描くシリーズ。現在のところ作者の唯一の完結したシリーズでもある。
征途1 衰亡の国
レイテ海戦から太平洋戦争の終結(直前)までを、大和砲術長藤堂の一族を主人公として描いたシリーズ第一作。レイテで武蔵の代わりに長門が沈み、その結果戦艦部隊(大和級を中心とする栗田艦隊)の突入が成功、大勝利を収める。しかし、結果として太平洋戦争の終結が遅れたことから、ソビエトの侵攻、国家分断という事態を招いてしまう。
沖縄へと水上特攻を行った武蔵に対して、ソビエト軍との戦闘の支援に向かった大和はついに戦後まで沈まず、以後のシリーズで少なからず重要な役割を果たす。征途2 アイアン・フィスト作戦
南北に分断された日本人同士の戦争からベトナム戦争までを描くシリーズ第二作。大戦の結果、東京を首都とする「日本国」と北海道の北半分と樺太を領土とする「日本民主主義人民共和国」とに分断された日本は、米ソにそれぞれ支援を受け、内戦を戦う。「日本国」はパットン将軍の指導による上陸作戦「アイアンフィスト」によって北海道を奪還する。
征途3 ビクトリー・ロード
最終巻。経済大国の地位に上り詰め、宇宙開発競争において独自の地位を作り出して行く「日本国」と、共産圏では随一の工業力を生かし信頼性の高い武器輸出国となった「日本民主主義人民共和国」。分断された日本と湾岸戦争とのかかわり、そして統一にいたる道のりを描く。湾岸戦争での「ミッドウェイ」を巡る戦い、そして統一戦争での艦隊戦における対艦ミサイル一斉射撃が見所。
日独の間で戦われる架空の第三次世界大戦を描いた文庫書き下ろしシリーズ。全シリーズ中最も広大な奥行きと長さを持ったシリーズで、作者の代表作となるべき作品である。第二次世界大戦においてアメリカの参戦がなく、英国とソビエトを屈服させヨーロッパを制覇するに至ったドイツ第三帝国と、日露戦争に敗れ大陸での利権を失ったかわりに現代的な貿易立国として成長の機会を得た日本帝国の間で、インド洋と北米を舞台とした第三次世界大戦が戦われる。1940年代後半という時代設定のためいわゆる「戦争に間に合わなかった超兵器」が数多く登場してミーハー的興味を掻き立てる。現在本篇七巻までと、外伝三巻、さらに資料篇として二巻が徳間書店より、また、本篇7巻以下の続巻として「死線の太平洋」全二巻および「パナマ侵攻1」「同2」が中央公論新社より、それぞれ出版されている。徳間書店版も、中央公論新社より加筆の上再刊される予定で、すでに第一巻が加筆、短篇二篇の追加を行った上で「合衆国侵攻作戦 レッドブラッククロス1」として出版されている。
レッドサンブラッククロス[1]合衆国侵攻作戦
米国の参戦がなかった第二時世界大戦を勝ち抜き、ヨーロッパを手中に収めた「大ドイツ帝国」が対日対米戦争を決意し、米国に向けた反応弾攻撃を行うまでを描いたシリーズ第一巻。ヴィシーフランス領となっていたカナダのケベック州から米国およびカナダに向けた電撃戦を開始するドイツ軍。対独融和政策をとる米国は有効な対策をとれないまま侵攻を許してしまう。一方、英国と同盟を維持し、カナダ、インドに派遣軍を持つ日本軍もまたこの戦いに巻き込まれてゆく。
レッドサンブラッククロス[2]迫撃の鉄十字
シリーズ第二巻。首都および大西洋艦隊の大半が残るノーフォーク軍港を大陸間弾道反応弾の攻撃によって失った米軍は、圧倒的なドイツ軍の陸軍・空軍戦力の前に為す術もなく、米大西洋艦隊残存戦力をもって行われた独軍の軍港に対する艦砲射撃作戦も、優勢なドイツ北米艦隊の迎撃の前に失敗に終る。一方、インド洋で通商破壊作戦を行う独東方艦隊と、これを討つべく出撃する遣印艦隊が描かれる。
レッドサンブラッククロス[3]反撃の旭日旗
シリーズ第三巻。〈フリードリヒ・デァ・グロッセ〉〈ティルピッツ〉によって遣印艦隊に大損害を受けた日本海軍が、〈フリードリヒ〉を沈めるまでの苦闘。北米では東部主要域の制圧を終えたドイツ軍と、ミシシッピー河を挟んで崩壊した合衆国陸軍とのあいだに構築された戦線での、滅びつつある合衆国航空隊との航空戦などが描かれる。
レッドサンブラッククロス[4]作戦グスタフ発動
シリーズ第四巻。強大な艦隊を擁するイタリア海軍のインド洋への参戦。さらに、旧式空母を中心とした補助戦力のみを用いたドイツ軍の拠点ゴアに向けた空襲作戦「T作戦」の開始までを描く。外伝として「奇想艦隊」誌に発表された、独軍特殊部隊の侵入と破壊工作を描く外伝「標的は〈大和〉」を収録。
レッドサンブラッククロス[5]第2戦線崩壊
シリーズ第五巻。アーリア艦隊の集結地ゴアに向けた日英海軍の旧式空母のみを用いた空襲作戦から、ソコトラ島上陸作戦「ブルーアイス」の劈頭、イタリア東洋艦隊と日本遣印艦隊との衝突(第二次印度洋海戦)、イタリア東洋艦隊の圧倒的な戦力を持ちながらの敗退までが描かれる。
レッドサンブラッククロス[6]インディアン・ストライク
シリーズ第六巻。〈ブルーアイス〉作戦を中心としたインド洋での戦いを描く。インド洋での戦線の早期終結、アメリカの西半分の枢軸側参戦に向けた軍事的衝撃となることを目的として構築されたソコトラ島上陸作戦に、日本海軍はようやく主力である第二機動艦隊を投入、多大な損害を出しながらもソコトラ島のドイツ空軍戦力を撃滅し、上陸作戦を開始する。
レッドサンブラッククロス[7]バーニング・アイランド
シリーズ第七巻。〈ブルーアイス〉作戦終結までのソコトラ島の戦いを描く。上陸を果たした日本海軍陸戦隊は、しかし「パンテルII」を擁するドイツ軍守備隊の前に壊滅的な被害を受け、海岸橋頭保への侵入を許す。
レッドサンブラッククロス 死戦の太平洋1
この巻より、中央公論新社C★NOVELSに場を移しての出版となる。位置づけとしては「バーニングアイランド」の続きである本篇のシリーズ第八巻。
インド洋の戦いは、ソコトラ島の枢軸側占領を契機として一応の終結に向かい、戦いはいよいよ北米での陸上戦、および北米大陸へ向けての補給戦へと重心を移してゆく。合衆国東部の生産力の本格的利用に成功しつつあるドイツ軍はテキサス州、カンザス州への侵攻を続け、日英枢軸軍は残る旧合衆国西部諸州からなる「アメリカ合衆国」との連携もとれないまま、カナダでの苦闘を続ける。本小シリーズ(死線の太平洋)は、東京−バンクーバー間の輸送船団TV一七を護衛する日英共同護衛戦隊「タイフーン」の、ドイツ軍Uボートとの、北太平洋における攻防を中心に描かれるようだ。護衛戦隊の司令官エヴェレット・ヒース大佐が私にはものすごく魅力的なキャラクターに映った。
レッドサンブラッククロス 死戦の太平洋2
本シリーズ(死戦の太平洋)一巻を承けて、北太平洋における日英共同護衛戦隊「タイフーン」とドイツ軍Uボート戦隊「アンヴェター(暴風雨)」との苛烈な戦いが描かれる。さまざまな新兵器を駆使した戦い、そして、さまざまな形で失われてゆく生命と財産。一方、北米での戦いは、引き続くドイツ軍有利の状況の中、ある転換点が訪れることとなる。
レッドサンブラッククロス外伝[1]
もと「奇想艦隊」誌に発表されたものを収録した外伝。大戦中後期、北大西洋で生起したドイツ北米艦隊と日英戦艦部隊との砲戦を描く「戦艦〈ヒンデンブルグ〉の最期」、大戦末期、ドイツ海軍の最期の攻勢(決戦)作戦として計画されたレイキャビク砲撃〈北ノ暴風〉作戦の顛末を描く「勇者の如く倒れよ」を収録。
レッドサンブラッククロス外伝[2]
七篇を収録した書き下ろし外伝。うち「予備士官」「塹壕にて」「少し遠い場所」の三篇が、外伝らしく日独の戦いのうち本篇では触れられないであろう小さなエピソードを描いたもの。ただし「少し遠い場所」はベルリン初空襲というやや大きな事件を扱っている。他に資料的な「新戦艦建造に関する往復書簡」「九九九艦隊計画概論」。第三時世界大戦から見ると後日譚ということになる「ある中尉の戦死」「戦艦」。
レッドサンブラッククロス外伝[3]
十篇を収録した書き下ろし外伝。うち第三次世界大戦中の視点から描かれた作品はわずか二篇(「海底戦隊〈隼〉」「七二七高地の争奪」)というバラエティに富んだ構成で、第四次世界大戦後、21世紀という時代設定の作品(「宇宙英雄ヴァルター・ケーニヒ」)さえある。他に日独冷戦時代の出来事を扱う「飛鳥の征けぬ空はなし」「喪失第一号」「交戦規則」「市民討論」「法務大佐かく語りき」。小論文的な「フリードリヒ大王最後の勝利」「主力戦闘戦車論・断章」。
レッドサンブラッククロス秘録
設定資料集。外伝色が強い短篇が四篇と、日本陸軍戦車の図版入り解説が、レッドサン世界での出版物「手記 第三次世界大戦」の一冊「戦艦〈土佐〉夜戦艦橋の悪夢」という体裁で収録され、これに登場人物一覧を加えて「秘録」一冊としている。
レッドサンブラッククロス密書
設定資料集。作者の仮想戦記に対する態度をタイムマシンを使った歴史改変に仮託して書いた総論篇、ノストラダムスの予言と作中の事件との符合や、ドイツの制式化されなかった戦闘機の解説などをおさめた設定資料篇、外伝篇と、作中の名言集、作品年表。シュウ・シャン・カンタニャック(?)、高梨俊一、大山格、川端芳直、鹿内靖、清水貞樹、加藤伸郎の各氏との共著という表現でよいのだろうか。作品内に同名で登場する人物が多くてややこしいのだ。
日米の戦争を扱った仮想戦記。日本に勝ち目のある状況とするために、アメリカが南北戦争の結果合衆国と連合国に分断されたという設定が面白い。南の国境に仮想敵国を抱えていながらなお強力な合衆国に対して、日本が(ありがちな)鮮やかな戦略を用いて勝つのではないらしいというところに注目したい。なお、時代設定はレッドサンブラッククロスとほぼ同様で、部分的に実用ジェット機が登場している時期。本篇三冊、外伝が一冊発売中で、シリーズ継続中。
侵攻作戦パシフィック・ストーム[1]対立要因
いかにして日米が対立し、米国の対日戦争が決意されたかを描く、シリーズ開幕篇。分割され、史実より弱体なアメリカ合衆国は、奇跡的な経済成長によって大国にのしあがった日本との経済戦での敗北を未然に防ぐべく、奇襲攻撃から早期の講和を目指す限定戦争としての対日戦を決意する。この改変された世界における両国の現状や、来るべき戦争に備える登場人物たちが描写されるものの、ここではまだ世界は平和を保っている。
侵攻作戦パシフィック・ストーム[2]想定状況
欧州の状況に危機感を抱きつつ、伝統的な漸減迎撃計画によって対米戦を戦おうとする日本軍首脳の下にあって、ひとり米軍の奇襲攻撃の可能性を推理し、高度な図上演習によってそのことを証明しようとする真田少将。一方米海軍はアーレイ・バーク新提督のもと大規模な実動対抗演習を行う。二つの演習は、ともに計画した者たちにとっての成功をおさめるが、まもなく開始された日米の実戦では明暗を分ける。
侵攻作戦パシフィック・ストーム[3]可能行動
日米戦は開始された。奇襲による衝撃の余勢を駆ってテニアンに上陸した米軍は、頑強な抵抗の前に早期占領を放棄、より優位の保てる戦場への目標転換を行い、短期決戦への道を模索する。そんな中で、初の日米の機動部隊どうしの交戦が発生、双方に多大な航空機の損害を残して終結。混乱する日本軍の中で、海軍大学校で日米戦の行方を研究していた真田は、国防軍令本部作戦部長に赴任する。
侵攻作戦パシフィック・ストーム外伝1
副題、"Rules of Play"。主として本世界における戦後を扱った短篇六篇を収録した書き下ろし外伝集。
キューバ危機を発端とする米ソの核戦争によって、日本を除く全世界が被害を受けた世界における日本を描く。アメリカが負けた核戦争後の世界の軍事的、社会的なシミュレーションとしての魅力もさることながら、主眼は日本による史実とは違う宇宙開発にある。月面着陸に象徴される、夢や学問的な興味から進められていった米ソの宇宙開発に対して、この世界での宇宙への進出は、日本的な日常の延長としてかたちづくられていく。現在三巻まで。表紙・本文イラスト鶴田謙二。
遥かなる星[1]パックス・アメリカーナ
第一巻は、第二次世界大戦後、航空宇宙産業で急成長を遂げた北崎重工と、その組織にあってあらゆる手段を用いて宇宙を目指す黒木正一による日本独自の宇宙開発の萌芽、そして全面核戦争でのアメリカの敗北を描くいわば導入篇。架空の大企業北崎重工と黒木正一という強力なロケット開発者を得たことにより、この巻においてすでに日本の宇宙開発は大幅な進歩を見せ、実績を重ねつつあるが、大筋においては史実通りの展開をみせる。核戦争を除いて、だが。
遥かなる星[2]この悪しき世界
第二巻は、第三次世界大戦後における日本を取り巻く環境と、変化した価値観の中それでも継続された宇宙開発をめぐるエピソードの一つ、アメリカの紛争地帯に不時着したヘヴィ・リフター二号機を巡る救出作戦が描かれる。北米大陸、欧州が壊滅的な被害を受けた第三次世界大戦を、奇跡的にほぼ無傷で切り抜けた日本は、生き残った数少ない大国に求められる責任と、経済的状況が要求するところにしたがって西側最大の武器輸出国へと変貌を遂げた。また次の核戦争による人類滅亡への恐怖から、宇宙開発はむしろ加速される。
遥かなる星[3]我等の星 彼等の空
無数に分裂したアメリカ、やはり衰退の道をたどりつつあるソ連。崩壊しかかった世界に、その軍事力によってかりそめの平和をあたえつつ宇宙を目指す日本は、その種子島、沖縄に続く三つ目の宇宙港として、保護領としたトラック諸島に海上宇宙港「JSP-03」の建設を始める。EP、アースポートと通称されるそこに、アメリカの残骸というべき勢力が送り込んだ特殊部隊と、それを撃退すべく投入された「現実的な」装甲服ARMSの戦いが本篇の山場。
天山出版の「逆転・信長軍記」を再刊した形の1巻からシリーズ化した作品。1巻で本能寺から辛くも脱出した信長が、独特の火力を重視した戦力を率いて全国を統一するまでを描く。2巻、3巻は、日本のほぼ全域を制覇しながら一時的な経済的危機の中動員が思うに任せない信長軍と、防衛的意図から最後のチャンスを生かすべく挙兵した家康軍との、関ヶ原での決戦を扱う。これらの改変された戦国史を、信長が生き残った平行世界における「現在」からの視点で、(同じく平行世界の)近代/現代史と比較しつつ物語るという形をとっており、そこには、徳川二百年の平穏によってその根本的な民族的性格さえ変わってしまったかに見える日本民族が、戦国期のエネルギーを保持したまま世界と向き合っていたらその後の歴史はどうなっていたか、という命題に対する作者らしい回答が記されているようである。
※未完のまま、三巻でシリーズ打ち切り、下の「信長征海伝」として再開、となったようである。
いくつもの惑星に人類が植民した未来世界を描くシリーズ。未知の存在によって敷設された星間移動技術「ハイゲート」の出現によって、人類のまえに唐突に星への扉が開かれた。異星人「ヲルラ」との不幸な出会い、そして初の星間戦争を勝ち抜いた人類は、いままた強大な異星人「ネイラム第一氏族」との長きにわたる戦争に、幸運にも有利な状態での講和という形で、辛くも決着を付けようとしていた。ハイゲートを通じ、十を大きく越える惑星へ移民を成し遂げ、惑星国家群からなる巨大な「連邦」を構成している人類は、しかしネイラムとの戦争の終結による短い平和を楽しむ間もなく、内戦への危機を迎える。作者初めての長篇SFシリーズであるが、ここに描かれるのは、異質な存在たる異星人と人類のかかわりでも、原理不明のハイゲートとそれによってもたらされる広大な宇宙を巡る知的探求心でもなく、未来においても、その本質において何一つ変わることなく繰り返される「人間」がおりなす、戦争と平和を巡る人間同士のドラマである。
地球連邦の興亡[1]オリオンに自由の旗を
異星人「ネイラム第一氏族」との、二五年間にわたった星間戦争は、その幕を閉じようとしていた。激戦地、惑星アウラVで装甲服に鎧われた「小銃中隊」を率い、死闘を繰り広げる南郷一之大尉、そして包囲された彼の中隊を嚮導駆逐艦艦載艇を用いて救い出した永井景明大尉。ほどなく訪れた休戦により、縮小され、復興に向けて動き出した人類領域で、南郷は軍に残り、永井は軍を退くことを選ぶ。
地球連邦の興亡[2]明日は銀河を
南方星域先端部とよばれる星系群の一つ、ノヴァヤ・ロージナは、日系惑星N-3へとつづく要衝にありながら、ネイラム第一氏族との戦争終結にともなう景気の悪化の波を受け、未曾有の不況の中にあった。「現状のようではない祖国」への渇望は、C(クローン出生の人間)への憎悪と混ざり合い、大きな市民運動へと勢力を拡大してゆく。そんな中、南郷は精鋭一個大隊を率い、リェータに降り立つ。
地球連邦の興亡[3]流血の境界
「自由市民連合」の活動が拡大の一途をたどり、内戦へと続く後戻りのできない道を踏み出しはじめたリェータで、「一般待機命令」下におかれた南郷ら陸戦隊は、可能なかぎりの手を打ちつつも、連邦の対応に疑問を覚えはじめる。そして、ISNGOの一員としてリェータを訪れていた永井もまた、動乱の局外にはいられなかった。
地球連邦の興亡[4]さらば地球の旗よ
ついに内戦状態、連邦への反逆へと踏み込むことになった、自由市民連合が支配する惑星リェータで、迫害を受ける十四万人のC(クローン出生の人間)救出のため、南郷の率いる部隊は、地元警察、ISNGO(星間非政府組織)と連携しつつ、粘り強く、そして押し寄せる民衆を相手とした血まみれの防戦を戦い抜く。そして、南郷が派遣された、真の目的とは。
空に翼龍が舞い、地を剣牙虎が駈ける架空の「〈大協約〉世界」を舞台としたファンタジー戦記シリーズ。圧倒的な軍事力を持つ世界的覇権国家〈帝国〉の侵攻を受けた〈皇国〉という、島国〈皇国〉の防衛戦争を主題として、ナポレオン期程度の科学技術に加えて龍や導術の存在を前提にしたリアリティある軍事行動が描写されている。日本語と、それに付随する文化の一部を架空の半封建国家である〈皇国〉へと持ち込み、ドイツ、ロシアを思わせるヨーロッパ文化を基調とした〈帝国〉と対置させている部分は、世界把握を容易にしている反面、普通のファンタジーファンには受け入れられない部分かもしれない。
現在五巻まで、中央公論社/中央公論新社から「C★NOVELS FANTASIA」の1シリーズとして刊行されている。コミック版が計画されているらしい。
3巻まで出版されたのち刊行が停止していたKK版「霸王信長伝」に大幅な加筆訂正を加え、新シリーズとしたもの。ストーリーのアウトラインはほぼ原シリーズを引き継いでいるが、よりシリーズ全体を見据えた視点からの伏線が張られている。また、天山版およびKK版一巻においてまだ明確でなかった平行世界の近代/現代史もより深く語られている。続刊がやはりKK版の加筆訂正版となるのか、それともストーリー構造そのものに手を入れるのか、また四巻で終わるのかそれでは収まらないのかは、しばらく見守ることにしよう。現在2巻まで、中央公論新社から発売中。
滅亡間近いドイツ第三帝国のベルリン郊外に墜落した未確認飛行物体と、それを回収すべく派遣された降下猟兵中隊との奇怪な戦いを、巻き込まれた現地の村民、一般親衛隊とユダヤ人捕虜などを絡めつつ描く書き下ろしSF/ホラー長篇。あえて通俗的な、都市伝説としての「UFO」を採用し、それを作者一流のリアリティある軍事描写と対比させて描くことで、異星の客の異質さと、よくできたホラーに備えられるべき、登場人物たちの絶望感を強調することに成功している。主人公たちと対抗して異星人たちの発揮する能力が、最初やや平凡に感じられるかもしれないが、徹底した描写が一種「手あかのついた」情景に効果的な救いを与えていると言える。
私(大西)の知るかぎりにおいて、作者の初めてのハードカバーであり、角川書店から富士見書房を通じて出版される、という形式をとった。なお、ファンならば、本篇中で幾度か言及される「四三年に日本において発生した同様の事件」に、否応無しに続篇への期待をかきたてられることだろう。
空中での燃料切れ、脱出ののち墜落という事故を起こした3人のイーグルパイロットが見た白昼夢を描く中篇。実質は3つの夢が独立した連作短篇と見ることができる。これら「白昼夢」はそれぞれ龍の住むファンタジー、ドイツ軍と日本軍との戦争(レッドサンブラッククロス世界?)、宇宙戦争である。飛龍を載せた母艦が走るファンタジー世界が興味深く、いつか続篇が書かれることを望む(※と、書いたら、上記「皇国の守護者」が出た。これがそうであることは、ご存じの通り)。異星人との戦争の部分は「地球連邦の興亡」への布石となっているようだ(ただし、内容には明白な相違点がいくつかあり、外伝的性格のものではない)。落ちが冴えている。
SFアンソロジー「宇宙への帰還」に加筆版が収録された。
自衛隊の諜報組織を中心に展開される対諜報戦を扱ったドラマ(スパイ小説)。ドンデン返しがあるので、気を抜いて読むと最後で訳がわからなくなること請け合い。
枚数の制限からか、短篇小説というにはやや小論文的な要素の強い「特別読み物」で、信長が死ななかった場合の戦国時代のその後を描く作品。発表時期が天山版の「逆転・信長軍記」の後で、KKベストセラーズ版の霸王信長伝シリーズの開始前になる。テーマが同一のため大筋においてこれらのシリーズと軌を一にするが、細かな部分ではいくつも違いがある「もうひとつの霸王信長伝」とでもいう内容。作品の題名が文庫自体の題名と反対になっているのは、わざとなのか、それとも編集側からの要請か。
《征途》シリーズの間に挟まって徳間書店から出版された、佐藤大輔初期作品集とでもいうべきもの。いくつかのウォーゲーム専門誌に掲載された記事、ゲーム付属の解説などの文章が収められている。小説で初めて佐藤氏を知った方には当時の状況を知るうえで、また《レッドサン ブラッククロス》の原形となった同名のウォーシミュレーションゲームに関する資料として得難い価値を持つとおもわれる。また、歴史篇に収められたいくつかの小論文は読み物としても非常に面白い。
近未来の日米のあいだに戦われる戦争を描いた短篇集。特に「構成/藤大輔」とあるように、コミック原作というよりも篇著者というべき位置づけで、佐藤大輔色の強い一冊となっている。日米が本当に戦ったらどうなるか、というテーマよりも、米国で出版されているこの手の読み物の視点をパロディー化した作品が多く、全体に肩の力の抜けた明るいイメージ。「征途」の3巻や「遥かなる星」シリーズと通じる部分もあるので、両作品の愛読者には一読の価値がある。
コンピューターゲームを製作するソフトハウスの、開発の現場にたずさわる主人公の周辺で起きた事件を描いた小説(ちょっと分類しがたい。SFマガジンによると「ゲーム・ミステリ」。なるほど)。ゲーム開発の舞台裏への興味とは別に、ゲームや人物に関する、この作者らしい明快なものの見方が楽しめる。冒頭の「くそゲー」に始まる主人公の物言いが痛快。珍しい一人称形式。
宮崎駿の作になる劇場用アニメーション「天空の城ラピュタ」に材をとったゲームブック。奥付によれば87年末発行で、戦略シミュレーション系のどの作品よりも前に出版されたものということになる。それにしても10年前のこの本がいまだに新刊で買えるところがアニメージュ文庫の恐ろしいところだ(あるいは宮崎アニメ関連書籍の、というべきか)。内容は原作のストーリーのクライマックス、ラピュタの内部の冒険の部分に絞ってゲーム化したもので、オーソドックスなファイティングファンタジー型のルールを基本としている。不完全ながら双方向移動可能な構造と、戦闘ターンごとに根性ポイントというパラメーターを用いた士気チェックがあるのが特徴。予想外に原作のストーリーを忠実に再現していることに好ましい驚きを覚えるが、あまりに「左に進みますか右に進みますか」式の選択肢が多いことにはうんざりさせられる。
(この本に関しては「holy」さんに情報をいただきました。感謝いたします)
史実の、真珠湾攻撃の背景、および第二次攻撃の是非を題材にした小論集。解説には「ドキュメント小説」とあるが、文中で述べられている「小説でも史論でもないヌエのような文章」という表現がよく性質を表していると思う。「主砲射撃準備よし!」に収められた二編の論文が採録されているので、純粋な「書き下ろし」ではないのだが、むしろ主文を補足する資料の自己引用と取るべきかもしれない。他に巻末に小説を二編おさめている。