気候が急に寒くなり、すっかり風邪を引いてしまった。どうも、普段の人間関係がぬるい状態で育ったからなのか、自然そのものに対してまでそういう関係を期待するところがあり、夜寝る前に、今晩はちょっと寒いな、と思っても、まあ、そこまでひどいことにはなるまい、と思って寝てしまうのである。明け方、薄い夏布団の中で寒さに身を縮こまらせて、おいこらちょっと待たんかい埼玉コラ、シャレならんでホンマ、などとぼんやり思っているのだが、別に自然はシャレで暑くなったり寒くなったりしているわけではないのだ。まあしかし埼玉はその点まだいいヤツであって、これが東北なり北海道なりカムチャッカ半島なりになると、シャレやし勘弁してえや、なんて言っている間に凍傷で指が取れたりする。私はそういう地方に行ってはならない気がする。
それにしても、明け方寒さで目が覚めるというのは、いくら何でも対策が後手に回り過ぎである。先週のある朝、あわてて押し入れの布団圧縮袋から毛布と冬布団をごそごそと取り出してきたのだが、そしてこれがまた、圧縮袋の性質上解凍に時間がかかるため、見た目がたいへんあわれな状態になっていたのだが、何重にもかぶって寝直したときには既に遅く、すっぱり風邪を引いていたのである。
とにかく、熱があり、寒けがして、鼻水がでて、頭が痛い。それでも昨日いちにち、薬を飲んで寝ていたらだいぶ良くなった気がして、この文章も、風邪で寝ている布団にノートパソコンを持ち込んで書いているのだが、こうして目が覚めるたびに文章を書いたり、自分のページに接続して掲示板に書き込みを入れているというのは、もうこれはある種の呪いというべきだろう。
さて、一日に十時間以上寝ると、必ず夢を見るものである。私は大学時代、人間というものは、少なくとも私というものは寝ようと思えば十二時間だって十五時間だって眠れることに気がついた。ただ、どういうわけか眠たくないのに無理して寝ると、必ず最後に長い夢を見て目が覚めるのである。大学時代はとにかくよく寝ていたので、夢日記をつけていた。さすがにばからしくなったのと、睡眠時間が短くなってきたのとで、最近はもう書いていないのだが、それでも夢があまりに印象的だと、内容をメモしておくことがある。面白いもので、こういう癖がつくと、夢はめったに忘れてはしまわない。
さっき見た夢の話をちょっとすると、漫画を書いている夢だった。オリジナルのヒーローが登場する四コマで、基本的なキャラクターデザインまでちゃんとしてあったので、目が覚めたら思わずメモ用紙に絵を描いてしまったのだが、絵の方は御要望があればこっそりお見せすることにして、内容をお話ししよう。
主人公は「各務剛志(かがみつよし)」。大阪府出身四五歳ソフトウェア開発会社勤務の中間管理職である。死別した妻(名称未設定)との間に高校生の娘が一人いて、恵子(めぐみこ)というその娘は悪い娘ではないのだが、父のことをやや煙たく思っている。各務は、外見はうだつのあがらないサラリーマンなのだが、その実、幼いころ異星人に誘拐されて肉体改造を受けたヒーローなのだ。腰の「変身万歩計」が一万を越えると、スーパーヒーロー「スピードマン」に変身するのだ。
ここまで読んで脱力したあなたが目に見えるようである。私もここまで書いて読み返して脱力している。ああ、まだ熱があるんだろうか。とにかく書いてしまおう。
スピードマンの武器は、スーパーストリング・スクランブルブレード(SSSブレード)。物質の根幹たる「ひも」を伸ばしたりゆがめたりアレしたりすることによって作り出される究極兵器である。空気分子を歪曲させることによって空中から、1プランク時間単位でスピードマンの手の中に作り出されるこの棒状の武器は、硬いので殴られると非常に痛い。さらにベルトに仕込まれた異星人超科学の結晶、スクィーズドスペース・ジャンプ(SSジャンプ)によって、空間をねじ曲げて7メートル以内なら一瞬で移動することができるため、銃弾など理論的にはいっさい命中しないのだ。
スピードマンと敵対している悪の秘密組織、それが「獣人帝國バグー」である。獣人なのにどうしてバグーなのか、昆虫人帝国じゃないのか、というのはそこがツッコミどころなので我慢して下さい。獣人帝國バグー(ちなみに「國」の字は旧字体で書かないと、気を悪くする)は、獣人皇帝バグエンペラーによってイチから作り出された巨大な秘密組織である。バグノイドと呼ばれる獣人戦士を遺伝子改造によって作り出し、彼らの理念である「大阪を中心とした新日本建國」を実現するため、そして彼らの野望を妨害するスピードマンを倒すため、つぎつぎと大阪に差し向け破壊活動を行うのだ。猫のバグノイドはキャットバグ、という調子で命名されることになっており、バグノイド第一号はアリクイの獣人「アリクイバグ」だ。虫なんだか獣なんだかとにかく複雑な名前である。
書いていて、ひょっとして私以外だれも面白がっていなかったらどうしようという気分であるが、もうここまで書いてしまったので続ける。ストーリーはこうだ。第一話「変身!スピードマン」。大阪侵攻を開始した獣人帝國バグーは、第一の刺客アリクイバグを大阪市此花区に上陸させる。「うおぉ、アリはどこじゃバグーアリ喰わせろバグー」とか言って暴れだすアリクイバグ。特に必然性はないがこのままではJR環状線西九条駅が危ない。急げ各務剛志。いやさスピードマン。万歩計の数字はまだ三千。電車の中でも走るのだ。
さらに、このあと、全二六話の間に、モスバグ(おいしそうな名前だ)のマユがある通天閣を根元からSSSブレードでがんがん殴って破壊したり、レオポンバグと阪神パークで対決したり、恵子さんがスピードマンに命を助けられて恋をしてしまったり、各務に再婚ばなしが持ち上がりしかもその正体がバグノイドであったり、仕事を休みがちなスピードマンがリストラされたりと、いろいろとドラマチックな展開が予想されている。請う御期待である。
ええと、請う御期待はいいのだが、風邪の話だったはずが、いつのまにか夢の細部に肉付けをして、こんなことを書いている私は、本当にまだ熱があるのだと思う。やっぱりも少し寝ます。お休みなさい。