少数派として生きる

 こういうことを書くとたちまち風化することを承知の上で、今私は、アップルが「花柄のiMac」を発表した直後にこれを書いている。ドット柄もある。面白い。たいへんに面白い。私は(既にiMacが家にあるので)買えないけど、誰かが買ったところを見たい。それにしても、もうあるから買えないというのも、ちょっと犬を飼うような話である。

 さて、ここで何度か書いているように、私はマックを使ってこの文章を書いている。私の周りはたまたまマックユーザーが多くて、普段ほとんど意識することはないのだが、それでも世の中に出ればパソコンといえばウィンドウズマシンであって、自分が少数派であることは知っている。それも、販売台数を信じるに、かなりの少数派であるらしい。

 ひいき球団、支持政党、持っている自動車のメーカー、化粧品の銘柄など、どんな人も、普通何かの事柄では多数派で、別の何かしらでは少数派であろうから、みなさんにうなずいてもらえるだろうと思うのだが、少数派に属する人間は、仲間が少ないこと、それそのものから、さまざまな不利益を受ける。一つには量産効果と呼ばれるもので、端的には「少数派のための製品は高価だ」ということだが(※)、よく言われることに「意地悪な多数派による被害を受けやすい」ということがある。少数派は、多数派から迫害を受けるものなのだ。

 説明しよう。今、ウィンドウズというOSは、寛容で、他人の立場によく理解を示し、差別を憎む聖人君子が使う環境だとしよう。ユーザーの中で、他のOSを使っている人に対して理解を示さない人はわずか三パーセントくらいしかいないと仮定してみる。クラスに問題児は一人だけ、というわけである。まず理想的だ。で、これに対して、他のOSを使っているヤツなんかみんなドジでマヌケなヘボイモ野郎だ、という差別的なマックユーザーは、全体の四〇パーセントにのぼるとする。腐ったリンゴはもはやアップルクラスを学級崩壊に追い込んでいる。

 ところが、こんなに極端な仮定をしてすら、マックユーザーはウィンドウズユーザーの無理解に苦しむことのほうが多いのである。ある調査によれば、マックとウィンドウズ機の販売台数比は、だいたい一対一九である(この数字は、今説明のために出してきたので、嘘かもしれない)。百人ユーザーがいると、九五人がウィンドウズを使っていて、マック派が残りの五人というわけだ。これにさっきの数字を掛けてみると、
  95×0.03 = 2.85
   5×0.40 = 2
「差別主義ウィンドーザー」が三人、「腐ったリンゴ」は二人いることになる。

 これはつまり、たとえば、就職してみたら上司が「ウィンドウズを鼻で笑う嫌なマックユーザー」である確率は百に対して二だが、「マックに無理解なウィンドウズユーザー」である確率は百について三だ、ということに等しい。マックユーザーでいることは、より多くの無理解に耐えなければならないということなのだ。さらに、実際には両者の「差別主義者」の割合は十倍もの開きはなく、むしろ似たようなものであろうから、実情はこれよりまるっきりマックユーザーに不利だろう。少数派は、それだけで損をしているのだ(ただしこの計算は、多数派を多数派であるというだけで憎んではいけないということもまた、示唆している。問題のある構成員の割合はむしろ少ないかもしれないのだ。巨人ファンに幸いあれ)。

 実はこのような話をしたのは、マックユーザーであることのちょっとした悲哀を、先日、またも味わうことになったからである。私は、あるCDを探していた。三つほどのCD屋を回ったのだが、結局発売日には手に入れられず、次の入荷を待つことになった。新作CDというものは、かつてのファミコンのカセットとは違い、どんなに人気があっても意外に早く品不足が解決されるものだから、べつに慌てることはなかったのだが、ふと、その曲がオンラインでデータをダウンロードするという形式でも発売されていたことを思い出し、そのページに行ってみた。

 率直に言って、現状の販売形式では、私がそのページから楽曲を購入するということは、まずあり得ない。販売しているデータ形式は、コピーやインターネットでの無許可のファイル配布を避けるため、ファイルの移動ができない、専用プレイヤーでしか演奏できないなど、厄介な制限をいくつかかけてあるのだが、その専用プレイヤーにマッキントッシュ版が用意されていないのだった。「FAQ」の「Macでは使用できませんか」という(実にもっともな)質問に、たいへん冷たい(と思える)答えが書いてあったので、近い将来解決される見込みも、あまりなさそうである。

 それにしても、心底疑問なのだが、CDを買ってきて自分でMP3エンコーディングすれば、ISDN回線だと一曲20分くらいかかるダウンロードも不要だし、手軽に思いのままにバックアップもできるし、携帯プレーヤーで聞くこともできる。たとえ私が将来マックを使わなくなっても、MP3形式ならウィンドウズでだって聞ける。パソコンを買い替えるたびにシステムをインストールしなおすたびにダウンロードしなおし、などというどう考えても馬鹿なこともない。CDシングルをレンタルCD屋で借りてきて手元にMP3ファイルを残すのは、たぶん違法じゃないと思うのだが、これなら100円だ。

 では、それならどうして、このオンライン販売、一曲350円もするのだろう。誰かこれが便利な人っているのですか。これは、無視された少数派の、ひがみなのでしょうか。


※確かに人気のある音楽家のコンサートのチケットは取りにくい。それゆえに少数派に安住する人も多いが、人気があればその分公演の数も多くなるので、あながち「タデ食う虫」有利とは言えない。
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