渋滞のできる法律相談所

 人生は限られていて青春は過ぎ去ってゆくので、毎週欠かさずできることというのはそうは多くない。だからテレビでドラマを毎週見ることさえできずに悲しい毎日なのだが、それでも「行列のできる法律相談所」はどうにか毎週見ている。これは笑福亭仁鶴の「バラエティ生活笑百科」と同じような法律を扱ったバラエティ番組だが、日曜の夜という時間帯もいいのだろうし、内容のほうも、尻尾までアンコでとてもいい。ところが、これから「行列」の話をするのかというとそうではなくて「バラエティ生活笑百科」の話をはじめてしまうのである。

 このNHKの番組は(「行列」もそうだといえばそうだが)、誰かが法律相談所に相談にやって来る、という形式をとっている。オール巨人・阪神のような漫才師が出てきて、漫才形式で問題を説明する。これに対して、相談員という名目の三人の出演者(上沼恵美子ら)が意見を述べる。たとえば慰謝料は払ってもらえる、払ってもらえない、というような話であって、最後は弁護士の先生が法律にのっとって判断を述べて、それが結論になる、という、そういう構成である。

 あるとき、私がぼーっとテレビを見ていると、この番組で「駐車の罰金は払わないといけないのか」という話をやっていた。この罰金というのは、要するに普通の家の軒先なんかによく貼ってある「無断駐車罰金一万円」という貼り紙のことで、そういえば確かに、本当にあの金額を払わないといけないのか、気になるところである。ところが、何だったか忘れたが、どうということはない用事がその時入って、私はついにその結論、法的に言ってあれは支払うべきなのかそうではないのか、払うとしても満額なのかそうではなく何らかの常識的な額でいいのか、肝心の法律上の解釈を聞き忘れてしまったのである。本当のところはいまだに知らない。

 知らないのだが、なんとか理詰めで考えてみよう。これは畢竟、額の問題である。たとえば駐車場に「一回五百円」と書いてあったら、これは払わないといけないと思う。パーキングメーターとか、街の駐車場のようなもので、これを払わないというのは罪だろう。しかし、ではいくらでも書いてあるだけ払わないといけないかというと、絶対にそんなことはないはずである。罰金額をどんと増やして十万円、百万円、いっそ一億円と書いておいたとして、本当に払ってもらえるとはちょっと思えない。だから問題は、一万円が本当に払ってもらえる額なのかどうか、ということなのだが、だからそこを聞き忘れたんだってば。

 実際に街角で見かける貼り紙がおおむね「一万円」で統一されていることからして(一度だけ「二万円」というのを見たことがあるが)、何か一万円のところにこう、ボーダーラインが引かれているような気もするのだが、街角で見かけた人がよしウチもやろう、と伝達していったから額がどこでも一緒になっているだけのことかも知れないので、何とも言えない。本当にどうして結論を見のがしてしまったのか、残念でならないのである。

 ところで、これに関して、本当に一万円払ってもらえるとしてだが、こういうのはどうだろう、と思い付いた。

「無断でこの掲示板に広告を書き込んだ人は広告費として一万円払っていただきます」

 どうだろう。他人の掲示板に広告の書き込みをする人というのは、私が見るかぎり、けっこういるものである。自分が一生懸命作った作品を見て欲しい、というようなものではなくて、もう少し不純な、電子メールによるスパムと同様、下手な鉄砲で数を書き込んで自サイトにトラフィックを誘導し、莫大な収入を保証する云々の甘言で釣りながら最終的にはなにかアヤシゲな商売に引き込んだりしているんではないかと想像されるアレのことだが、これは要するに、他人の資産を使用して無断で無料で宣伝してしまう行為であって、だからといってサイト運営が傾くほどのダメージは受けはしないのだが、そういうわけでこのへんの感じは無断駐車に非常によく似ている、ような気がする。そこでひとつ、上のように一筆書いておけば、広告があるごとに一万円が手に入ってとてもお得なのではないだろうか。

 いや、私も夢を見て暮らしているのではないので、実際に一万円払ってもらうのが大変そうだということはわかる。わかるのだが、そこはそれ広告なので相手がどういう人かというのは一応わかっている。たぶん、リンク先のサイトの管理人だろう。たとえそうではないとしても、なにしろこちらは掲示板の管理人なので、書き込んだ人のIPアドレス等から、下手人を特定することは理論的にはできる。だとすれば、少なくとも抑止力としての効果はあるのではないか。「無断駐車罰金一万円」の貼り紙が本質的にそうであるように。

 などと「罰金一万円」の合法性もわからぬままいいかげんな話を書いた(いやそのごめんなさい、ネット上で何とか調べられないことはないと思うのだが、この手のものは知ってしまうと書けなくなるので)のだが、ここで大きな問題がある。私のサイトにも掲示板があるのだが、広告の書き込みがあったことが、いまだかつてないのだ。どうしてかはわからない。このサイトがマイナーな存在だからかもしれないし、入口のリンクに「談話室」と書いてあって掲示板らしくないからかもしれない。いいことだが、試せないのは問題である。いや、電子メールでやってくる「スパム」だけは絶えることがないので「無断スパム一通一万円」と書くことはできるのだが、それはうちのポストに「ダイレクトメール一通一万円」と書くようなものであって、困るのはダイレクトメール業者ではなく、郵便配達の人だけではないかと思ったりもする。差出人はそんなもの、読んじゃいないですよねえ。


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