なぜなのかは知らないで

「それでは次のコーナー。『大人電話相談室』です」
(音楽)おとーなでんわっ、そーだんしっつ。
「凄いですねえエリックさん、これ、作ったんですか」
「作りました。ありがちですが、ありがちなことこそしっかりありがちに作らねばならないというのがこの番組のポリシーです」
「ははあ」
「ありがちだとみんなは笑うかもしれない。しかし、ありがちなことだからこそ、ありがちと照れずにありがちにがちっとやり抜くことによってそこに美しさが生まれるのです」
「そうなんですか」
「そうですそれが様式美というものです。『ありがち道』と私は呼んでいます」
「どう、ですか」
「そうです額田さん。ありがちウェイです」
「えー、質問行きましょうよ質問」
「はい。ちなみに『大人の質問』は受け付けてませんよ。大人の方からの質問を受け付けてるだけですからね」
「意味深ですねえ」
「大人の態度で一つお願いします」
「質問行きましょうよ」
「そうでした。最初の質問です。兵庫県加古川市のラジオネーム『ゆうくんママ』からの質問です」
「ありがちですねえ」
「ありがちウェイです」
「なるほど」
「『私には一歳半になる子供がいます。離乳食は、最初はどろどろのお粥のようなものからはじめて、だんだん大人の食事に近づけていくのですが」
「はいはい」
「『最初は飲み込んでしまうだけなので《ごっくん期》と呼ばれています。その後、口の中ですこしもぐもぐやるようになるので《もぐもぐ期》が来ます」
「そうなんですか」
「そうなんでしょう。『その後に来るのは食べ物を噛みきることができる《かみかみ期》です。ところが、その次に来るのが」
「なんですか」
「『育児書によれば《ぱくぱく期》なんです。おかしいと思いませんか。なんだか《ぱくぱく》では丸のみしているような気がします』」
「えー、しませんよ。ぱくぱく食べるんじゃないですか」
「いやあ、私は分かるなあ。ゆうくんママさん。ぱくぱくよりかみかみのほうがしっかり噛んで食べているような気がしますよねえ」
「そうかなあ」
「わかりました。そんな育児本の言うことなんか信じることない」
「いやだって」
「番組であらたな期を作ることにしましょう。《がぶがぶ期》というのはどうでしょう。ゆうくんママさんの子供は、いやゆうくんか。ゆうくんは《かみかみ期》のあとに《がぶがぶ期》が来るんです」
「えーっ」
「我々もずっと《がぶがぶ期》が続いているので、毎食がぶがぶ食べているわけですね」
「なるほど、って、いや、がぶがぶと食べてなんかいませんよ。それに、なんか水ばっかり飲んでそうにも聞こえませんか」
「んー、では《ばくばく期》では」
「や」
「《むしゃむしゃ期》」
「どうかなあ」
「《がつがつ期》」
「あー、という育児経験のないエリックさんの見解でした」
「ほっといてください」
「わかりましたか『ゆうくんママ』さん」
「こんなんですいませんこういうコーナーです」
「わたし思うんですが、これってちっとも『電話相談室』じゃないですねえ」
「次の質問です。東京都町田市の『カテキング』さんからいただきました」
「『キン肉マン』のキャラクターですね」
「それは『ステカセキング』です。えー『つねづね疑問に思っているのですが、燃えるゴミ、という言葉はどこかおかしくないでしょうか」
「はい」
「『燃える男、というと、情熱的な男性という意味、それから、そのまんま、服に火がついてたいへんなことになっている男性という意味があります。しかし、可燃性で火をつければ燃える男、という意味はありません」
「ええと、なるほど、そうですね」
「『ではどうして燃えるゴミの場合だけ、火をつければ燃えるごみ、という意味があるのでしょう。とても不思議です。教えてください』」
「ははあ、難しい質問ですね。ええと、燃える油とか、燃える紙くずとか、確かに燃えるナントカというと『今燃えてる』ということで、『火をつけたら燃える』という意味はないような」
「これはですね、『飲むヨーグルト』と同じですね」
「ええ、どうしてですか」
「『飲むヨーグルト』は『飲むことができるヨーグルト』です。決して『ヨーグルトが飲む』でも『今飲んでいるヨーグルト』でもありません。だから、これと同じだと思えばよろしい」
「ああ、はい」
「こういうのは他にもあります。『はかせるオムツ』とか『見えるラジオ』とか『じっくりコトコト煮込んだスープ』がそうです」
「はいはい、え」
「『燃えるゴミ』は『萌えるアニメ』みたいなものです。よくある用法ですから、気にしないで下さい」
「それは漢字が違うやつでしょう」
「わかりましたかステカセキングさん。えー、それでは、あと一つくらい行きましょう。次の質問です」
「はいはい、どうぞ」
「宮崎県都城市の田中勝、あ、ラジオネーム『バソキヤ』さんからの質問です」
「言っちゃいましたね」
「なんのことでしょう。えーと『最近放映されているマスターカードのテレビCMについて質問があります」
「クレジットカードですね」
「『ドラクエ風の画面で、新入社員がマスターカードでパソコンやスーツを買い、お得意先と戦うのものです」
「はいはい、みたことありますが、いや、またそんな風化しそうなネタを」
「風化とはなんですかこれはラジオだからいいんです」
「そうでした」
「『ところが、このCMの冒頭で、新入社員がマスターカードを手に入れるのが、宝箱なのです」
「えー、そうでしたっけぇ」
「『しかもあろうことか、フィールド画面に落ちている宝箱を開けてカードを手に入れてしまうんです。エリックさんいいんでしょうか、拾ったカードでパソコンやらスーツやら鞄やらを買い込んだりしても』」
「フィールド画面というのは」
「野っぱらに落ちてた、てことですね」
「うーん、それは確かに、言われてみるといけないことのような気が」
「はい、お答えしましょう。これはですね、いいんです」
「え〜、どうしてですか」
「そんな馬鹿みたいに『え〜』なんて声出しちゃいけません。そもそもあの人は新入社員と思われていますが、違います。実は暴力団の新入団員なんです」
「なんでそんなことが言えるんですか」
「コマーシャルをよく見ると、かれ、カードで『ドラゴンのスーツ』とか買ってるんですよ。ドラゴンのスーツというのは、スーツの背中に竜の絵が刺繍してあるものですから、かたぎの人間がそんなスーツを着るはずありませんよね」
「ひ、比喩的表現ですよねあれは」
「ええそうです。『こわいトクイサキ』とビームやなにやらで戦っているのはあれは比喩的表現で、本当は机を蹴飛ばしたりムナグラをつかんでガタガタと」
「わあわあ」
「さっさと出すもん出さんかいオラ」
「ひどいなあ」
「夢と冒険のはじまり。プライスレス」
「やめましょうよ叱られますよ」
「というわけで、冒険者じゃないみなさんは、ちゃんと自分の口座でカードを作りましょうね」
「いやあ、確かに冒険者も、まあ、暴力団みたいなものですけどねえ。それでいいんでしょうか」
「いいんです。わかりましたか田中さん」
「また言っちゃいましたね」
「なんのことでしょう」
「はい、えー、時間です。というわけで、『大人電話相談室』のコーナーでした。ではここで一曲お聞き下さい。Norah Jonesで『Don't Know Why』」


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