夕方の食べある記

 あまりこのコーナーにふさわしいとも思えない、どうでもよいことなのですが、掲示板のほうで「ドラえもん」の話が出たついでに、備忘録代わりに書いておきたいことがあるのでした。お付き合いください。

 ドラえもんの話の一つで、実は昔読んだきりなので細かい筋を覚えていないのですが、思い出すまま書いてみます。のび太やスネ夫、ジャイアンが新聞を発行している、というものでした。部数が伸び悩んでいるとか、なにかこの新聞には問題があって、起死回生の新企画を打ち出すべし、ということになっています。三人で企画会議をしていたところが、自分の都合で勝手なことを言うのび太やジャイアンを圧して、スネ夫が「やはりゴシップだっ」と強力に主張するのでした。いつものスネ夫のパーソナリティとはちょっと違う、意外さが面白いので、このあとどうなるのか、ドラえもんの道具がどうかかわってくるのかを全部忘れてしまって、なお、このことだけはなんとなく覚えています。

 ここで、書いておきたいのはこの中で誰か(のび太?ジャイアン?)が主張する「新企画」です。町内のうまいもの屋を順に特集する、題して「食べある記」とかいうもので、取材時にうまいものを食べられるという下心あっての持ち込み企画です。直後にスネ夫に却下されるので、残念ながらこれが日の目を見ることはありませんでした。

 当時小学生の私は、読んでいて、そりゃそうだよそんな記事面白くなさそうだもの、と思ったのですが、今の目で見ると、けっこう堅実な企画に思えます。考えてみるとタウン誌なんかには大抵そういうコーナーがありますし、ためしに平日の五時くらいから民放各社でやっている夕方のニュースの特集。これを見てみるとすると、これがほとんどこの「食べある記」なのです。

 いやもう、馴染みのない方は、たまには夕方早く帰って覗いて見てみるとびっくりしますが、各局とも本当に、びっくりネタジャンボお寿司やら本職のパティシエの作るケーキバイキングやら行列のできる激美味都内のラーメン店やら、もうそんなんばっかりなのです。この時間になると、局が四つあったら三つくらいそういう話題を放映している、なんてことは珍しくありません。もう逃げ場がない感じです。

 もちろん、だからといって別にどうということはありません。気に入らなければ見なければよいだけで現に見ていないわけですが、これは決して企画力が貧弱だから、ということのみに帰せられる問題ではないと思うのです。一つには取材対象がやっぱり東京周辺の店に偏っているからです。もし自分が東京に住んでいるか、あるいは水戸周辺の特集があるなら実際問題として、ある程度役に立つように思います。これを貴重な「ニュース」の枠でやるべきなのか、それがニュースのあるべき姿なのかは全く別の問題ですし、別の番組でやって欲しい、と私は思いますけれども。

 それにしても、本当に一度夕方見てみて下さい。首都圏以外では違うのかもしれませんが、どうしてこんなに多いのかと、きっと思います。これは、確かニュース番組なのです。ニュース番組で、何が悲しくてデパ地下か。ほかに伝えるべきニュースは本当になにもないのかと。

 どうしてこうなのでしょう。まさか「ニュースの取材班がうまいものを食べたい」というだけでこうなっているわけはないでしょうが、しかし、考えてみると、私が記者だったとして、交通事故や窃盗事件の取材と、「スタッフ一同温泉で一杯やりつつ新鮮刺身に舌鼓」とどっちを選ぶかといわれると、やはり後者なのです。たとえ、現実にはスタッフは日帰りでうまいマグロは自分の口には入らないとしても、麻薬犯罪を追って危険な街を足を使って取材するよりマシです。きっちりした世論調査よりも街頭百人アンケートのほうが楽だし、汚職事件よりお食事券のほうがうれしいです。人情というものではないでしょうか。

 とりあえず、視聴率で常に競争を繰り広げている各局が、それなりに必死で考え、送り出している特集なのですから、視聴者からそっぽを向かれるようなものではないのでしょう。ある程度の支持があってのものだと思います。ただ、私に関して言えば、人生で「食べある記」企画に最初に出会ったのが「ドラえもん」の話の中なので、どうも平常心で見られません。どうしても色眼鏡で見てしまうのです。もしかして、視聴者が本当に求めるよりは、ちょこっと多めに、この手の企画が増えているのではないかと。いったん全部の局がそうなってしまえばもう怖くないとばかりに、今ではもうみんな取材費を使ってひたすら遊びまわっているのではないかと。

 いや、いいのです。スポンサーならぬ私に利害関係があるわけではないのですから。ただ、もしかしたら民主主義というものは、こういうつまらないことから崩壊するのかもしれないですね。などと、おいおい今日はばかに社会派じゃないか的なことを書いておきます。すいませんちょっと偉そうなことを書いてみたかっただけです。とりあえず、テレビ局のスネ夫君たちには頑張って欲しいです。って、いやそれも問題がありそうな。


追記:上記の話は「ドラえもん」ではなく、事実は「オバQ」の一話である、という情報をいただきました。この事実に対面することによって私が襲われている内的な、なにか嵐に似たものはともかくとして、以上を追記しておく次第です。えええっ、なんですとっ。
トップページへ
▽前を読む][研究内容一覧ヘ][△次を読む