水戸から兵庫県までの距離は700キロメートルにも達する。常磐道から首都高、東名高速を経て、名神高速、中国道を経る遠大な道のりであり、通過する都府県の数は実に12に達する。里帰りを実現するためには、この距離をなんらかの手段で走破する必要があるが、この距離は時速100キロを維持した宇宙船でも7時間もかかり、現在の技術では人間の一生の間にたどり着くことは不可能である。宇宙を舞台としたSFなどでは、この困難を解決するため、さまざまなアイデアが検討されてきた。ここではその一部を紹介する。
(1)低速の宇宙船を用いる方法
まず、現在の技術の延長上にある、比較的低速の宇宙船を用いる方法がある。前述の通り、時速100キロメートル程度にしか達しない(渋滞や休憩が入るとこの平均速度はさらに落ちる)現在の宇宙船では、十二時間以内に兵庫に到達することはほぼ不可能である。この低速宇宙船を用いて里帰りを実現するために、次のようなアイデアが議論されてきた。
○冷凍睡眠を用いる。
○種子船を用いる。
○世代間宇宙船を用いる。
冷凍睡眠とは、パーキングエリア等で運転手が睡眠を取ることで、人間の寿命を延ばし、宇宙船の航行時間の間、運転手や乗客が歳を取らないようにするものである。冬場にパーキングエリアでエンジンを切って休んでいるとたちまち寒気が押し寄せてくるのでこの名があるが、本当に凍り付いてしまうと一家全滅なので、スリーピングバッグなどの特殊な技術の導入が欠かせない。種子船は、受精卵を宇宙船に搭載し目的地に里帰りさせるもので、家族全員で里帰りする場合よりも圧倒的に小さな宇宙船でよい。ただし、新幹線の切符代などが必要になるため、大変高コストな里帰りになってしまうし、子供が東京駅とかで買わなくてもいいものをどっさり買うためたいへん危険な手法であると言える。最後の世代間宇宙船というのは、巨大な宇宙船に一つの社会を作り上げるに足る人数を住まわせ、宇宙船内で世代交代しつつ目的地を目指すものであるが、言うまでもなく、うちの娘が免許を取るまでは数年あるし、教習所に通わせるために別途多額の資金が必要である。余談だが、最近「娘があと7年で成人」と聞いてびっくりした。何年か前にうちにいた、あのちっちゃくて可愛らしくてふわふわした生き物はどこに行ったのか。何かだまされているような気がする。
(2)宇宙船の速度を増す方法
里帰りに用いる宇宙船の速度を制限しているのは燃料である。里帰りの道中ずっと加速を続けるためには多量の燃料や推進材が必要であり、旅の初期にはその推進材そのものを加速するための燃料が必要となるため、必要な燃料は莫大なものとなる。そのため、途中のサービスエリアのガソリンスタンドで燃料を補給し、加速を再開する手法が検討されている。これをバサード式ラムジェットを呼ぶ。この手法の難点は、高速道路のガソリンスタンドはたいてい市価よりもうんとこさ高いことである。特に現在のような原油価格の値下がり局面において差額は顕著なものとなる。たしか水戸でリッター129円だったのに、高速道路だと154円とかでまさに目の玉が飛び出た。それでもたまにあそこで満タンに入れる人がいるので恐ろしい。庭に石油が湧く家の人なのかもしれない。
その他、科学的とは言えないが、さまざまな超光速航法を仮定し、困難を解決しているSF作品も存在する。たとえば「ワープ航法」などと呼ばれるものがそれであり、これは、従来の高速道路の空間をゆがめ、目的地に短距離でたどり着く超空間的なバイパスを建設するものである。今回の行程では、第二東名や新名神がそれにあたる。ただし、新東名、新名神ともに、超空間バイパス建造は完了しておらず、通常空間に戻るゲートにあたる大津や三ヶ日あたりの渋滞はそりゃもうものっすごいものになり、一度など、京都あたりで始まったサッカーの試合が、ハーフタイムを挟み、後半が始まって、終わって、一通り反省してもまだぜんぜん吹田に着かなかったりした。あれはひどかった。しかも日本代表負けたし最悪だった。
このように手法がさまざま考えられているが、現在のところ、水戸から兵庫への里帰りが夢物語であることにはかわりはない。いつの日か楽々日帰りで里帰りできる日はやってくるのだろうか。それとも、子供がぜんぜん着いてきてくれなくなり、自動車での里帰り自体がちょっと無意味なものになるほうが早いだろうか。とりあえず今年は片道16時間くらいかかったのである。しんどかったのである。