あなたがよく見るテレビ番組

 世の中で一番アンケートに答えているのはどういう人たちか。私は「頑張ってコート」等に大量に応募するコーヒー飲みの方々を始めとする応募マニアだと思うがどうだろうか。しかし、特にコーヒー飲みではなくとも、アンケートに答えるべき場面というのはしばしば訪れるものである。

 たとえばウェブ上でもアンケートの形態をとって、読者の意見を募集していることがあって、この間も百本なり二百本の「雑文」の中から好きなものを5本選んでください、という質問にかなり苦労しつつ答えたことを思い出す。

 しかし、このアンケートというもの、基本的には回答者からの一方通行である。アンケートの設問には、そんなことを聞いてどうするのか是非知りたい、というような質問があったりするが、普通回答すればそれきりであり、その情報からどういう統計がとられて、どんなことに利用されるのかということはわからない。個人情報の流出、などということを考えなくても、これではブラックホールに情報を投げ込んでいるようなものであり、そこに不気味さを感じることもある。ただ、ウェブでのアンケートに限って言えば、趣味でやっている人が多いので、詳細なレポートが公開されることが多い。しかしこれとて回答がどういうふうに役に立っているかを実感できることは少ない。

 ところが、かつて私は一度だけ、自分の答えたアンケート結果に手ごたえというか、フィードバックを実感したことがある。

 むかしむかし、平成も片手で数えられるころ、私はゲーマーだった。コンシューマーゲーム機というのは青春を無駄に消費するについてはそれ以上ない手段だが、そのころ私はかなりゲームのために生きていた感がある。たとえばこのころ書いた文章を見ると「何とかの剣の在りかは」とか「必殺技のコマンドは」等々ほとんどゲームのことしか書いていない。なにをやっているのだ私は。機種はPCエンジン。なんとまだCD-ROMドライブがない時代である。このときこのプラットホームにハドソンと並んで精力的にゲームを発表し続けていたのがナムコであった。

 私が暇に任せて答え続けていたのは、このナムコのゲームを買うと必ずついてきたアンケート葉書である。ゲームを買うとたいてい同梱されているこのアンケート葉書、どのくらいの人が記入して送り返すのだろうか。私も大人になり今や送り返すことはほとんどしなくなったが、なぜかそのころはいちいち律義に感想を記入して、わざわざ切手を買ってきてでも投函していた。多分寂しかったのだろう。インターネットも無かったし。

 こういったアンケート葉書でちょっと困るのは、答えにくい類いの質問である。答えにくいと言っても、「あなたのイチ押しのアーティストは」なんていう質問に答えるのはむしろ不可能であって、そこでアンケートを放棄するのが常だったが、そうではなくて「どんな雑誌を読んでいますか」「どんなテレビ番組を見ていますか」というような質問である。
 別に書くのにやぶさかではない。しかし、雑誌といっても結構な数を購読しているし、テレビ番組といっても毎週一本しか見ていないわけではないのである。しかし、それらすべてを書くにはあまりに解答欄は狭く、第一そこまでの手間をかけることを要求されているとは思えない。一番好きな、とか、一番よく見ている、ということになるのだろうが、たとえば購読している雑誌はそれぞれ好きだから読んでいるので、そのベクトルの向きの違いを無視して絶対値だけで比較するのは非常に困難である。たとえば「日経サイエンス」と「週刊モーニング」のどちらを書けばよいか。どっちも好きなんだが。

 とまあ、そういった事を考えながら、好きなテレビに関しては、私はそのころ常に「パペポTV」と書いていた。今もあるのだろうか、大阪で深夜二時ごろから放映していた、上岡龍太郎と笑福亭鶴瓶のトーク番組で、特にテーマも何もなく、二人が一時間しゃべるというだけの番組である。身の回りの変な出来事、時事に関するはすに構えた意見など、話はあちこちに跳び、一貫しない。そういえば、この雰囲気は「雑文」に非常に近い。私がこうした文章に魅かれ、自分でも書いたりしているのはこの辺りにルーツがあるのかもしれない。まあこの「パペポ」に限らず、平成の始めのころの大阪の深夜番組というのは妙にパワーがあり、親元を離れたばかりの私は毎日のように深夜番組を見ていたものだった。

 それにしても、なぜ数ある番組からあえて「パペポTV」か、というのははっきりしている。画数が少なくて、難しい漢字がないからだ。それに一度書いてしまえば、変える理由もないのでそう書き続けることになる。このころ私は年に数十本のゲームを購入していたから(そのすべてのアンケートに答えたわけではないが)かなりの数の「パペポTV」と書かれたアンケート葉書が、ナムコの元に届いたと思う。

 これだけで終わってはそれだけのことだが、ある日のこと、「パペポ」を見ていて、「クーソーしてから寝てください」なるナムコのコマーシャルが入ったことに気がついた。いつの間にか、「パペポ」にナムコがスポンサーとして加わっていたのである。関西ローカルの、深夜番組に。

 これはちょっと驚きであった。私のアンケート葉書がナムコを動かしたのだろうか。まあ、そんなことは無くて、結構有名な番組だったから私以外にも同じ回答をした人が多かったのかも知れないが、とにかく嬉しかった。ただ、ゲーム購入層とどのくらい視聴者層が重なっているかというのはよくわからなくて、ひょっとしてひどく偏った統計からナムコが偏った結論を出した可能性も否定できない。そうだとしたら、申し訳ないことだなあ、などと思った。
 まあ、メインスポンサーであった郵便局と比べて、業種に関係ないということではどっちもどっちではある。

 関西の皆さん。「パペポ」、まだあるのでしょうか。あったとしたら、ナムコはまだスポンサーですか。そうでなかったとしたら、またアンケートに「パペポTV」と書けば帰ってきてくれるでしょうか。


トップページへ
▽前を読む][研究内容一覧へ][△次を読む