超能力批判

 超能力はありえない!
 近頃、超能力の存在について議論を持ち掛けられることが多い。このような超能力を無批判に持ち上げ、無責任な報道をするマスコミにはほとほとうんざりだが、ちゃんと科学の教育を受けていながら、それを素直に信じ込んでしまう人が多いのはまことに嘆かわしいことである。正しい科学知識を身につけてさえいれば、超能力などないことは明らかなのだ。

 まず、スプーン曲げである。スプーン曲げは、超能力者が固いスプーンをぐにゃりと曲げる現象である。これは、一見してさまざまな物理法則に反している。まず、スプーンの首を曲げるには、そこが柔らかくなっているとしか思えない。そのような条件を作り出すには、スプーンが数百度から千度もの高温になっている必要がある。しかし、テレビの超能力者の実演を見る限りでは、スプーンが赤熱している様子も、超能力者の指が焼けこげたりしている様子もなかった。さらに、その熱はどこから来たのだろうか。スプーンを数百度に熱するからには、そのエネルギーがどこからか来ている必要がある。これは、熱力学の第一法則(エネルギー保存の法則)といって何万回も試され正しいことが絶対に明らかな動かすべからざる法則である。スプーンが熱されたのなら、その熱はいったいどこから来たのか。超能力というなら、その熱はすべて超能力者の脳から来ているはずなので、その脳からエネルギーが奪われたとしか考えられない。いったん超能力を使うと、脳の中の栄養はすべてスプーンに奪われ、脳は一時的にその機能を停止してしまうほどのエネルギーである。しかし、スプーンを曲げようとして脳に深刻な損傷を被った例というのを、寡聞にして私は知らない。

 次に、テレパシーである。あるとき、米海軍が陸上と海中に潜った潜水艦との間で、テレパシーがあるかどうかを確かめる実験をしたという。潜水艦内で、一人の超能力者がカードを見つめる。そして、地上に残ったもう一人の超能力者がテレパシーによってそれを当てるというものだ。しかし、このような長距離で、しかも海中と陸上のような場所で、通信が可能な手段があるのだろうか。現在、それに利用できそうなのは次のようなものに限られている。
(1)音波
(2)電磁波
(3)ニュートリノ
(4)重力波
 このうち、音波と電磁波、重力波はまず除外できる。なぜならばこれらは「逆二乗法則」によって弱まってゆく信号だからである。もし、海中の超能力者が、遠く離れた陸上の超能力者に弱いながらも信号を伝えようとすると、海中の超能力者の近くに行くにしたがってその信号の強さは距離の二乗に比例して強くなる。これは、音波、電磁波、重力波が、球面状に広がるという性質から来る基本的な物理法則である。おそらく、海中の超能力者が発するエネルギーはとてつもなく大きいものになり、潜水艦ごと海の中で大爆発を起こすことだろう。超能力者がテレパシーを使う場合は、遠くに離れていた方がいい。
 可能性として残したニュートリノだが、これはもう、あまりにも相互作用をする可能性が低いので、地球さえも貫いてしまう。長さ数光年の水を突き抜けても、その反応確率は五分五分といったところである。これが、陸上の超能力者の脳の中で相互作用して、なんらかの情報を伝える可能性は、無視できるほど小さい。ニュートリノの可能性もありえないのである。

 この二つに紙幅を取られすぎたので、あとは簡単に切って捨てることにしよう。

 サイコキネシス、念動のたぐいは、「作用反作用の法則」に反している。小石程度のものを持ち上げる能力を考えてみるといい。重力に逆らって百グラムの小石を持ち上げる力はおよそ1ニュートンの力になる。しかし、この小石を持ち上げる1ニュートンの力は、どこに反作用をもたらすのだろうか。作用反作用の法則に従うなら、反作用は超能力を発揮する器官、脳にかかってこなければならない。もちろん脳は、普段頭蓋骨に守られてはいるが、基本的にもろい器官で、この1ニュートンの力に耐えられないのは明らかである。それとも、超能力者の脳は筋肉でできているとでも言うのだろうか。

 予知能力もまた、物理学の基本法則に反している。まず、「不確定性原理」がある。この原理のため、未来は確率によってしか予測できないことは広く知られた事実である。未来はこのようになります、という予想は、この不確定性原理によって否定されるのだ。だから、未来予知はない。たとえ、「タキオン」のような未知の、時間をさかのぼる粒子によって情報が伝えられているとしても、そのような粒子は非常に高いエネルギーを持つと思われるので、予知能力者の脳は深刻な放射線障害を受けるはずである。未来予知はこの点から見ても起こり得ない。

 チャネリングというのもおかしい。「相対性理論」によれば、通信の速度は決して光速を超えることはできない。重力波、ニュートリノなど、他の物理的存在を通信に使ったとしても同じ事である。決して光速は超えられない。だが、チャネリングを行う超能力者(チャネラー)は、遥か数百光年のかなたの星に住む宇宙人と交信していると主張している。相対性理論に従うなら、「宇宙人さま、呼びかけに答えてください」とチャネラーが呼びかけてから、「なんだい」と答えが帰ってくる前に数百年の時間が流れていなければおかしいのである。したがって、チャネリングもない。

 このように、正しい知識を持ち、それを適切に使う能力を持っていれば、超能力などにだまされることはありえないのである。みなさんもテレビや本を信じ込む前に、良く考えて欲しい。
 そして、以上の議論に納得してしまった方は、ぜひ下の参考文献に当たって欲しい。結論が正しくても、使う論理が適切でなければなんにもならないということを教えてくれる反面教師として、実に有益である。


※参考文献「超能力ははたしてあるか」大槻義彦・講談社ブルーバックス
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