研究に自由を

 私が去年このページに書いた「研究内容」の中に「夏休みのお天気」というものがある。夏休みの最高最低気温を三つの都市で記録し、グラフ化して、いかに去年の関東の夏が涼しかったかということを浮かび上がらせようというものだった。まるで小学生の「夏休みの自由研究」のようだが、これだけではなく、このころの「最近の研究内容」を見ていると、なんだかどの記事も自由研究を志向しているようだ。
 そう、すっかり初志を忘れていたが、このページの目指すところは小学校の自由研究なのだ。自由研究が一杯詰まった感じにしようということだったので「研究内容」なのではなかったか。というわけで、夏休みシーズンでもあることだし、今回のテーマは自由研究なのである。

 思い出してみれば、私が小学生のときにやっとのことで思いついた自由研究は、西日本の海岸線に沿って、道路地図から起こした距離を書き込み、合計して海岸線の長さを求めるというものだった。なんというか、こう書くと不毛であまり意味のない作業なのだが、A4の地図から模造紙に地図を拡大する技術を研究できただけでも有意義ではなかったかと今にして思う。この拡大技術は、中学や高校の文化祭の時に非常に役に立つものだったのだが、見つけ出した一番楽で奇麗だった方法は、原稿と模造紙の両者に碁盤の目を書いて、それぞれの碁盤の中を手作業で書きうつすというものだった。こうすると全体のバランスが取りやすいのである。今だったら近所のコンビニで拡大コピーを繰り返すという身もフタもない方法があるわけだが。

 時間がかかっていて、かつ自分ではなかなか得るものも大きかったこの作業の結果が、夏休み後の発表会であまり評判がよくなかったことを恨みに思った私は、中学校になっても高校になっても夏休みの自由研究のネタを考え付いてはメモしていた。このまま埋もれさせるには惜しいので、ここで小学生の子供を持つお父さんお母さんのために、私が思いついたが使わなかった、夏休みの自由研究のアイデアを差し上げようと思う。小学生諸君においては、ロールプレイングのアイテムや得体のしれないカードを集めるのもいいが、ナイスな自由研究で、夏休みを有意義なものにして欲しいと思う次第である。

(1)自動販売機の種類と分布
・無人で販売を行うことができる自動販売機は、日本独自の進化を遂げ、街角のかなりの割合の商店がその機能の一部として備えるにいたっている。自分の街にある自動販売機の位置、管理者、販売品目を記録することで、どのような場所に自動販売機が多いのか、どういう役割を果たしているのかを考えてみよう。
・長所:夏休みを使って自分の街を良く知ることができる。外でうろうろするのはいいことである。
・短所:親としては「あの銀色の自動販売機は何を売っているの」とか「家族計画ってなに」などという質問にうまく答えなければならなくなる。

(2)ひまわりの発芽率
・市販されている花や野菜の種には「発芽率」という値が記されている。袋の中の種子がどれだけの確率で発芽するかということを示す数値であり、比較的肥料の有無などの条件によらない値とされている。実際に袋いっぱいのひまわりなどの種を植えてみて、この値が正しいかどうかを確認しよう。また植物を育てる作業を通じてプランターなどへの種の植え方を学習しよう。
・長所:発芽するまでの観察でいいので、期間も短く、朝顔のように一夏早起きするなどという苦行から解放される。
・短所:発芽した芽をそのまま捨ててしまうのはむごいので、やっぱりそれなりに育てる義務が生じるのだが、実際にマンションのテラスで袋一杯もひまわりをそだてるとどえらいことになる。

(3)アリの寿命
・その辺を歩いているアリを捕まえてきて、飼おう。残念ながら女王アリがいないわけなのでこのコロニーは早晩死滅するわけなのだが、それがどのくらい長持ちするかを、多数の空き瓶に同匹のアリを入れて、餌の有無などの条件を変えながら試そう。その結果からアリの平均余命を推定しよう。
・長所:集めたデータは統計的処理を行う必要が生じ、その他条件を同じにすることなど実験技術全般のトレーニングになる。
・短所:生命を大切にする心が失われる。

(4)抵抗器の抵抗
・市販の抵抗器は、その公差として一般的には10パーセントの誤差が許されている。実際に購入してきた百本の抵抗器の抵抗をテスター(回路計)を使って測定して抵抗値を記録し、どのような分布になっているかを調べよう。分布から、工業的に10パーセントの精度をはじめから持っているのか、それとも本来15パーセントの誤差のものの5パーセント分を捨てているのか、あるいは母集団から特に精度の良いものが取り除かれているのではないかといった推定を行うことを学ぼう。
・長所:テスターの基本的な取り扱いや抵抗器のカラーバーの読み方の他、得た分布が、正規分布となっているかどうかで生産過程を推定するという「推計学」を学ぶことができる。それでいて、結構あっというまに終わる。
・短所:使い道のない抵抗器が大量に家に余る。確かに安いものであるが。

(5)架空の旅行
・どこか目的地を設定し、そこへの旅を計画しよう。時刻表、交通機関、宿泊施設を調べる必要があるので、それをどこで調べたらいいか、それらの資料を使ってどのようなプランを立てたらいいかを学ぼう。余裕があったら旅行のしおりも書いてみよう。上級編として海外へのチャレンジもある。
・長所:旅行計画を通じて、JR時刻表の読み方、ガイドブックの調査の仕方などを学べる。どんな職業についてもこれは将来絶対役に立つ。
・短所:ずぼらな計画しか立てていない他人の旅に参加するといらいらする、幹事体質になってしまう。妙に計画を具体的にしてしまうと、子供に連れていけと泣いてせがまれることになる。

(6)コインの年代分布
・おこづかいやお釣りでもらう硬貨の製造年代と枚数をメモして、どの年代のコインがどれだけ使われているかを調べてみよう。消費税導入以後の一円玉の流通量の増加とコイン製造枚数の関係や、年代によって特に多かったり、少なかったりするコインがないかどうか調べて理由を考察してみよう。またそのころ起きた事件とともに、表やグラフにしてみよう。
・長所:自分が生まれる前後の年代のコインについて調べることで、現代史への造詣が深くなる。
・短所:子供らしい鷹揚さのない守銭奴になる。欲しい年代のコインをゲットするために大金をはたく、歪んだマニアになりやすい。

(7)メタ自由研究
・この雑文のように、自由研究の研究課題を、思いつく限り書き上げて、かかる期間や必要な道具、意義についてまとめよう。自由奔放な発想力としっかりした計画力が必要になるが、役に立つといえばこれほど役に立つものもないぞ。
・長所:達成すれば、非常に高度な発想能力を得ることができる。実際には自分はなにもしなくても良いので大変楽である。
・短所:これをネタとして書いているということはこの雑文はメタメタ自由研究なのである、などと書くと、それがオチかと読んだ人にツッコミを受けることになる。


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