桜の時

 桜は何と言っても並んだ木々がいちどきに花を咲かせるところにその美しさがある。そしてわずかな時間美しさを誇った後に、散り急ぎまたも一斉に今度は緑の葉を茂らせる。並木になっているとほとんど同じタイミングで咲き、散ってしまうのであって、木の高低枝ぶり、土質や肥料の状況などにはよらないようだ。よほど気温に、そして気温だけに敏感な植物なのであろう。

 ある漫画から得た情報なのだが、いや他でも読んだことがあるからほぼ真実だろうと思うのだが、かつて日本から大量に桜の木がアメリカ国ワシントン特別区に寄贈され植えられた。この日本を代表する花木は、当のワシントンに斧で切り倒されたりもしたが、しかしワシントンの水がよほど合ったらしく、毎年ちゃんと花を咲かせているそうである。しかも、春、なかなか暖かくならないという当地の気候が原因か、一ヶ月ほども咲いたままなのだそうだ。それだけの間咲いていると、かえって花見などはしにくいだろうと思うのだが、そもそもアメリカ国ワシントン特別区の人々は花見などしない。外国人というのは、しかたのないものである。

 桜の季節が終わった後、我々は膨大な量の花びらが地面に落ちているのを見て、そのはかなさとともに、これだけのエネルギーがこの一週間のために一気に使われたことにちょっとした目まいのような感覚を覚えることがある。よく考えてみると、花にとって、ぱっと咲いて、散るというのは必ずしもいいことではないはずなのだ。受粉期間を長く取ったほうが子孫を残すには有利なのである。思うに、もしかしたら、桜という木は、実はあまり日本の風土に合った樹木とは言えないのかもしれない。


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