格好いいことなのかそうでないのか、現代風なのか古風なのか、まったくわからないで書いているのだが、ある種の外国人の名前で、姓名の頭文字を取って呼びかけとする、ということがときどき行われている。「JFK」とか「BB」とかいうものである。これは別に有名人に限らないらしく、翻訳ミステリで巻頭によくある登場人物紹介に、一人だけ「JJ」という人物がいたりする。まさかこれが本名ではないと思う。
ところが、これを自分で真似しようと思うと、なんだかしまらない。まず、私の場合、「大西」という名前なので、こういう頭文字呼びかけを作るといかんとも不格好なのだ。大西克也(K.O)も信二(S.O)も忠弘(T.O)も昇(N.O)も、座りの悪さは同じなので、これはもはや大西という姓の根本的な欠陥の一つではないかと思う。まず、K.O.なりsoなりtoなり、それぞれに元からある単語であるところが良くない。大西義信なら「Y.O」になってしまうんだYO。ただ、辛うじて「ジャッキー大西」略してJ.Oはちょっとだけ格好いいかもしれない。缶コーヒーみたいではあるが。
つまり、アルファベットには、歴然として、格好いい文字と格好悪い文字があるのではないか、と思うのである。日本人以外に同じ感覚は通じないのかもしれないが、少なくともこの国に住む我々に広く「アルファベットで好きな文字はどれ」というアンケートをとった場合、A、F、G、J、R、V、X、Zといったあたりが上位に来て、B、H、I、L、O、W、Yには人気がないのである、などといったリストは今しがた私がフィーリングでナニしたものだが、そんなに外れてはいまい、という気がする。
全体的な傾向として、日本語の言語体系にあまり登場しない音が好かれやすい気がする。F、R、V、Xは確かにそうで、本当は下唇を噛んだり巻き舌で発音しないといけない。略語になる前の、もともとの言葉は英語かなにか外国語に決まっているのだ。そのへんが、いかにも日本語を略しました、という気がする「T.S」あたりと一線を画すところではないかと思う。舌を噛んで出す「TH」の音がもし一文字で表されたら、これも人気を集めるのではないか。
いや、そこまで話を拡げると、異論もあろう。今回は控えめに「とにかく『V』はカッコいい」と主張しておくことにする。「YRV」は自動車の名前だが「YKK」はチャックの会社である。「VHF」は都会っぽいが「UHF」はなんとなくイナカい感じがする。「MTV」はアメリカの音楽テレビだが「MBS」は梅田にあるM字型の建物である。あまり説得力がなくて泣けてくるが、とにかくそういう差別が存在しているような気がするわけである。そういえば「V6」とか「VAIO」なんてのもある。V6のVはバレーボールのVだと聞いたが、本当だろうか。
さて、そこでプロ野球である。阪神タイガースとか読売ジャイアンツなどの球団は、ユニホームの帽子に頭文字をあしらったマークを配していることが多い。福岡ダイエーホークスの「FDH」はヤケに格好いい、と思ったものだが、虚心に考えると、わが阪神タイガースの「HT」の文字は、YGやYBやYSに比べて、なんだか弱々しい。大した問題ではないようだが、子供というのはちょっとしたことでひいきチームを選ぶものであり、そうやって頭文字でファンになった子供が将来すごいピッチャーになって逆指名してくれないとも限らないのである。そういう大事な頭文字として、HとTを組み合わせたあの球団マークはどうかと思うのだ。タテとヨコの線しかないではないか。斜めである。なんといっても斜めが格好いいのだ。
ではどうすればよいか。「上毛ヴォルテックス」とか「強羅ヴァンガーズ」とか、いっそ「ヴィックス・ヴェポラップス」などというチーム名にすれば、子供大喜びな感じがしてなかなかいいと思う。ただ、冷静になって考えると「タイガース」よりも主として「阪神」がいけないのであって、それならもう、他企業に売っちゃえば解決するのである。取り急ぎ、Victorあたりに打診してみてはどうかと思う。