「あるとこにな、正直モンの町と嘘つきの町があったとせいやい」
「なんやの」
「ええがな。正直モンの町に住んどるんはみぃんな正直で、嘘つきの町に住む人は嘘しか言わんと」
「はいはい」
「でな、道が二つに分かれとるねん。どっちか一方が正直モンの町に続く道、もう一方が嘘つきの町に続く道やと」
「ん、それで」
「分かれ道のところに一人立っとるねん。コイツはこの二つの町のどっちかから来た人間なんやけど、どっちから来たかはわからんねん」
「うん」
「イッこだけ質問をしてええとして、正直モンの町がどっちの道か知りたいねんけど、どない言うたらええやろ」
「『あんたどっちから来たん』やろ」
「あ、知っとったんか」
「うん、こないだ、なんや、テレビのドラマで見たで。あん、『天才柳沢教授の生活』や」
「せやな。まあ、これしか答えがないいうわけやないし、抜け道もあんのんちゃうかな思うけど、まあスマートやんな。嘘つき町から来た人やったら自分の町と反対側を指す。正直町から来た人やったら正しく自分の町を指す」
「どう転んでも指差したほうが正直町」
「そうそう。そんで」
「うん」
「これを実地に応用でけんかな」
「は」
「街角で質問するねん。『すんまへんけど、おたく、どっちから来られましたんや』と」
「えー」
「で、『こっちです』といわれたほうに歩くねん」
「ん」
「いや、ホンマの世の中には、完全な嘘つきと完全な正直モン、どっちかしかおらんわけやない。せやけど、まあ、だいたい正直モンはいっつも正直やし、意地悪なんは出会い頭に嘘をついたりするやんか」
「う、ん、まあ、せやな。うんそうかもな」
「するとや。歩いて行くうちに、正直モンがやってきたほうに導かれることになるねん。ちゃうか」
「ほうほう」
「分かれ道のたんびにやってみたりすると、そんだけで、そのうち、正直で親切なひとばっかりの夢の国、どっかには絶対ある正直町に着けんねん。たぶん。」
「ほほう、や、そうかなあ」
「いやいや、交差点に来るたんび、何ぼでも繰り返すんやで。そらまあ、ぜったいいっつも正しい方向ばっかりとはいかん。いつもは正直な人がたまたま嘘をついたりな、嘘つきが意地悪しよってわざとホンマのことを言うたり。でもや、一回だけとちゃうわけや。なんどもなんども繰り返すんやから、そのうち、少しずつやけど、確実に『正直町』にたどり着くんとちゃうかな」
「うーん」
「パチンコの釘にはじかれるみたいなもんや。たまあにパチンコ玉は跳ね返されて、ちょっと上に登ったりすることもあるやろけど、最後はいっちゃん下のスロット、正直者たちが集まるところに導かれるはずやんか。な」
「途中のチューリップに入ってまう人もおるのとちゃうん」
「うん、パチンコやったら『当たり』やけど、この場合は暗ぁい路地に連れ込まれて半殺しにされて有り金ぜんぶパクられてまう、てな感じやな。でもまあ、百人でいっせいに試したら、九九人くらいは一番下にたどり着けるんとちゃうかなあ。じっさい問題、こんな世の中やけど、そこまでぶっそうでも、ないもんな」
「なるほどなあ。うーん」
「とりあえずや。新しい町で、アパートを探しているときなんかに、試してみたらでやろ。なんや正直モンの多い、治安のええとろに住めるんとちゃうか」
「いやあ、やっぱり、ほら」
「なんやねんな」
「駅からとんでもなく遠くなってもたらどないすんのよ。いくら周りが正直モンでも、徒歩一時間なんてところに案内されてもたら。しんどいで」
「あー。えーと、その場合はやな」
「うん」
「次に会うた人に聞けばええんちゃうか。『駅はどっちですか』て。正直モンばっかりの町やし、正しい方向を教えてくれると思うで」