ふぞろいな友人たち

 またも子供向け番組の話をしてしまう。

「でこぼこフレンズ」というのは、NHKの「おかあさんといっしょ」のいちコーナー、またはそこに登場するキャラクターの名前である。娘が喜んで見ているのを脇から眺めている限りでは、「いろいろな人間がそれぞれの個性を持っている。個性を尊重しながら誰とでも仲良くしよう」と、なんとなくそういう意図でもって作られているような気がするけれども、子供がどう受け取っているのかはわからない。一回一五秒くらいのコーナーで、赤いドアをノックして開け、やってきたキャラクターが、なんと言うべきか、それぞれに個性を発揮する。

 ここに出てくるキャラクターは日替わりで一二種類ある。「一二人」ではないのは、「五人で一組」や「大柄な人とムクっとした犬のペア」があるからだが、気になることが一つあって、それは「本当にこれらとフレンズになれるのか」ということである。こんなやつと友達になりたくないんだ等と言っているのではなくて、たとえば「中年の女性演歌歌手」などというのは、小さい子供にとって、好き嫌い以前の問題として、友達になるとかならないとか、そういう次元の存在ではないと思うのである(実際、人気はないらしい)。

 さて、今回話題にする「あなくま」も、そういう意味では友達になれるかどうか、ギリギリっぽい感じがする。流暢な関西弁をしゃべる、白黒ツートンのくまだ。くま、と書いたけれども、本人が「まいど、あなくまです」と言っているからくまだろうが、ウナギイヌのようなかわうそ君のような、なんともいえない格好をしている。いつも手に「穴」を持っていて、だからあなくまなのだ。私は、なにしろ関西を出てからもう六年になろうとしているので、絶対に確かとは言えないけれども、あなくまの関西弁のイントネーションは完全に見える。声優さんがもしネイティブスピーカーでないとしたら、非常にがんばっていると思う。

 あなくまは言う。
「これが、あなになるわけや」
脇にかかえた丸いざぶとんのようなものをぽんと床に置くと、そこに穴ができる。
「見といてや?」
あなくまはそこに飛び込む。すると、
「こっちやでえ」
あらあら、なぜか画面上から再登場する。つまり、そういう芸があるあなくまなのであった。

 私は、これを見て思った。ワームホールだと。

 ワームホールというのは、空間に開いた穴である。ブラックホールにちょっとした手を加えると、他の場所に繋がる「穴」ができて、さらにエキゾチック物質というなんだかよくわからないものをぱらぱら加えるとその穴を開いたままにできる、らしい。穴の一方と一方はトンネルになっていて、通常の空間を旅するよりもはるかに短く、両端をつないでいる。

 あなくまが持っている穴はこのワームホールであるということを、多くの証拠が指し示している。いや、本物のワームホールは、あなくまが持っているようなフラフープではなく(「ブラックホール」がそうであるように)球形に見えるのだろうが、まあそんなことはどうでもよい。

 ワームホールさえあれば、遠くの星まであっという間に旅ができる。しかもそれだけではなく、原理的にタイムマシンを作ることもできる。端的には、ワームホールの入り口の片方を光速に近い速度で飛ぶ宇宙船に乗せてひとめぐりしてくれば、ホールは未来と過去をつなぐトンネルになるのだ(厳密には「未来ともっと遠い未来をつなぐトンネル」になる)。そう、タイムマシンだ。タイムマシン。ああ、タイムマシン。タイムマシン。馬券で株で大儲け。

 というわけで、私は子供達に言いたい。ポジティブシンキングなメロディーヌよりもエコロジックな「じょうろう」よりも、ましてや靴下間違えて履いてくる「たまごおうじ」や歯磨きのたびにうるさくってしかたないケン・バーンよりも、あなくまこそ友達になっておくべき人物であると。かれはその存在において、本質的に「ドラえもん」に匹敵する強力な友人なのだ。娘よ。選ぶならあなくまだ。あなくまファンになるのだ。

 それから、そのついででいいのだが「関西弁の友人」を大切にしてはくれないだろうかと思う。娘へ、そして日本中の子供達へ向けて、そう言いたい。あなくまは素敵だ。関西弁も素敵だ。関西人だって、生きているんや友達なんやと。ほななーぁ。


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