昔むかし、あるところに、たいそう心がけのよい爺様と婆様が住んでおった。爺様と婆様には子供がいなかったが、代わりに猫を一匹飼っていて、二人はこの猫を我が子のように可愛がっていたそうな。しかし、猫はやっぱり猫で、猫の手も借りたいというが役には立たない。寄る年波で畑に出るのもだんだんと辛くなってきたある夜のこと、爺様が猫をなでながら、しみじみとこう言った。
「お前はほんに可愛い猫じゃて。ただのうお前、わしは思うのよ。もしお前が人間の子だったらのう」
婆様も深くうなずいて、
「本当じゃのうもし」
といった。すると、賢そうに座って聞いていた猫が、
「爺様、婆様、わたしもそう思います」
と、こうしゃべったので爺様と婆様は驚いてしまった。
「長らくお世話になったので、わたしも人間の言葉をしゃべれるようになりました。お世話になった恩返しをしたいのですが」
「こら驚いたことじゃ。滅相もないことじゃ」
婆様がそういうと、猫はすましてこう続けた。
「わたしはこれから旅に出ようと思います。爺様、わたしにつるぎを作ってください。婆様、かつおぶしを握りこんだ、おにぎりを三つ作ってください」
可愛がっていた猫が一人で旅をするなんてとんでもない、と爺様も婆様もとめたが、猫の決意は動かしようもなかった。ついに爺様は台所の包丁で猫につるぎを作ってやり、婆様はとっておきの米のめしで猫におにぎりをつくってやった。
「では、いってきます」
猫はそう言うと、つるぎを背中に背負い、にぎりめしを腰に下げて出かけていった。
それからなにがどうなったのか、猫を待っていた爺様と婆様にはわからなかったけれども、日本は鎖国を廃止して近代国家として大きな変身を遂げ、やがて幾度かの悲惨な戦争を経つつも、国際社会の一員として国力を蓄え、侵略軍を保持しない民主的な平和国家として、ついには技術力および経済力において世界一を争う大国と認められるまでになった。封建制度下での階級的で奴隷的な農耕作業からの解放のみならず、工業化および経済成長による経済の活性化が農村の生活および農業そのものにもたらした変革は劇的なもので、整備された社会保障とあいまって爺様と婆様のような人々の生活も当時に比べればずいぶん楽に、健康で文化的な生活を送ることができるようになったそうな。
昔むかしのお話じゃて。
おじいさんは、おばあさんの鼻の頭にくっついてしまったソーセージを見て、途方に暮れました。こんなはずではなかったのです。なんでも三つだけ願いが叶うという猿の手をつかって、こともあろうにおばあさんが「大きなソーセージ」などというものを願った、そのことにかっとして、つい「おばあさんの鼻の頭にくっついてしまえ」などと言ってしまったのでした。鼻から大きなソーセージをぶら下げたまま、おばあさんは泣いています。
おじいさんは、自分の軽はずみな言葉を心底後悔しました。泣いているおばあさんの肩を優しく抱くと、猿の手をささげ持って、こう願いました。
「コンパクトディスクが発明されますように」
こうして、それまで長い間使われていた、かさばって、整備調節がやっかいで、聞くたびに磨耗により僅かずつ音が悪くなってゆく樹脂製のレコードのかわりに、レーザーをピックアップに用いて金属薄膜上に記された信号を読み取り、音をデジタル的に再現することで、取り扱いが簡単で繰り返し聞いても記録された信号が劣化しないコンパクトディスク(CD)が実用化されました。装置が量産され安価になるに従い、手軽な音声/データ記録デバイスとして広く普及し、音楽に携わりまた音楽を趣味とする人々をたいへん幸せにしたということです。おしまい。
意地悪婆さんは、すずめたちに向かって「その大きなつづらをよこせ」と乱暴に言いました。正直爺さんがもらってきたという小さなつづらには、宝物がいっぱいに詰まっていたのです。これが大きなつづらとなれば、中にはどんなにたくさんの宝物が詰まっていることでしょう。よくばりな悪いお婆さんは、大きなつづらから出てくる山ほどの宝物のことを考えると、胸がわくわくしてなりませんでした。重い、大きなつづらを抱えてやっと家まで帰って来たお婆さんが、中を覗いてみてびっくり。
「ありゃまあ、こりゃなんだ」
中には、つづらいっぱいの重い原子核が入っていました。重い原子核は、おそらく過去のいずれかの時点で超新星爆発によってより軽い原子核から生成された物質で、二〇〇以上の多数にのぼる中性子と陽子から構成されています。その原子核のうちあるものは自発的に核分裂反応を起こし、中性子とガンマ線および幾つかの核破砕片へと分裂しつつ、余ったエネルギーをそれら放出粒子の運動エネルギーに変換します。これらはもとの原子核に質量の形で蓄えられていたもので、有名なアインシュタインの公式に従って莫大なエネルギーとして放出されるものです。さらに、放出された中性子の一部は周囲の物質によって反射されて、さらに一部が重い原子核に吸収されます。中性子を吸収した原子核は不安定になり、すぐさま核分裂を行いました。臨界質量と呼ばれる量を超えて集積されていた核分裂物質は、このように次々と多数の中性子を放出しつつ核分裂反応を行い、周囲に高熱を放出しつつ爆発を起こしたのです。つづらの中の物質は、始めは熱線と衝撃波で周囲に甚大な被害を与え、次に放射性物質の形でさらに被害を拡大し、意地悪婆さんの体を一瞬にして煤と水蒸気へと変化させました。
どっとはらい。
そういうわけで、それからというもの、カラスの羽は黒くなったのだそうな。めでたしめでたし。