圏外からの通信者

「なんだこの料理は、店長を呼べっ」
「ディレクトールでございますね」

 それにしても、携帯電話で出るあの「圏外」というのは、なに圏の外なのだろうか、会社の外が社外、学校の外が校外というあたりから類推すると、これもなんとか圏の外だから圏外だと思うのだが、電波圏とか通信圏とか、そういう単語があるとしてもあまり馴染みがないのは確かで、たとえば電波到達圏というようなもとの単語が本当にあるとしても、それを抜きにして「圏外」だけが広く通用しているのはちょっと妙な現象で、そして、もしかして、圏外はなに圏の外でもなくただただ圏外であるということになれば、それはそれでたいへん面白いことだと思うのである。

 最近になって知ったことであるが、学校は登校下校、会社は出社退社、むかしの侍は登城下城だが、幼稚園においては登園の対義語は降園というらしく、登降園中の安全確保についてのお話が園長先生からあったりするわけだが、私はいつもこれを忘れて下園だったか退園だったかと悩んでしまい、それで何が悪いかというと退園だと園をやめることになるのであって、退社もそういえば会社をやめることの意味に使ったりして、退学はではなぜ退校ではないのか、学園から家に帰るのはやはり降園かと世の中に不思議は多々ある。

 その意味では、思い出すべきは新選組で、新選組において組長という役はなく一番偉いのは局長であるので、これは学校が校長、幼稚園や保育園が園長、大学は大学校ではないから校長ではなく学長、などという通例とは明らかに異なっているわけで、いろいろと経緯があるらしいということはあちこちで目にし耳にするものの、変かそうではないかというとやっぱり変であり、つまりはこれが乱世であるということかもしれぬ。

 乱世さておき、時にはそういうことが起こり得るものであることがこれでわかるわけで、組なのにどうして局長なのかという疑問は、銀行がなんで頭取かとか、秘密結社の長は社長ではないのかと考えるのに似た馬鹿な疑問なのかもしれないと思ったりもするが、しかし、こういったことを許すことは、大げさに言えばついには世の中の秩序を破壊しかなねないことであり、ホテルで支配人を呼んだら寮長が出てきたり、病院の不祥事で書記長が記者会見をしたり、それどころかラーメン屋で獄長が麺をゆでていてもよいと言うのであろうか。

 何がいいたいのかというと、私はこのサイトに関連して電子メールを書くときによく「大西科学の大西です」と名乗るのだが、これは言うまでもなく変で「大西科学のジャッキーです」と書くよりもなんとなくまだましだという気がするだけだが、なにしろ「大西科学を書いている大西」というのもおかしいし、「大西科学を主宰している大西」「管理している大西」などと書くと部下がいそうでそれは嘘だし、それもこれもサイトの維持にお金を出し管理しているたった一人の人物という適当な言葉がないからで、開き直って社長でも所長でもなんとでも名乗ればよいのかもしれないが、それはそれで恥ずかしい。

 これはサイト、いわゆる「ホームページ」のことをいつまでも日本語訳しなかったのがそもそもの間違いであり、たとえばウェブページの直訳として「巣頁」という単語でもあれば、こんなに悩むことはなかったのであって、私は大西科学の頁主であり、複数執筆者がいる場合一番偉い人は「頁長」だし、「頁外」「頁内」という単語も作れるし、オープンしたり店じまいをしたりすることを「開頁」「閉頁」などと簡単に書け、いやもちろん現状でもサイト主などと名乗れなくはないが、センター長などと同じようなすわりの悪さを感じるし、これだけの応用はとても利かないので、これからはぜひ頁主を推し進めて行きたい。

 ところで「頁」という漢字は、キーボードから「ぺーじ」と打ち込んで変換することで入力しているわけだが、こんなのは本当は音読みでも訓読みでもないはずで、しかし、それではいったい何と読むのかというと「頁岩」はケツガンなのでやっぱりケツで、そうすると上の例は「ケツシュ」であり「ケッチョー」であり「カイケツ」「ヘイケツ」ということになるが、えー、それではなんとなく普及しないだろうだってケツだもんなどという安易なケツロンに今日も逃げ込むのである。ケツシュケイハク。


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