読み返してみると、私はここに不定期に、思い出したように迷惑メールに関するグチをこぼしていて、自分でもなんだかおかしい。それだけ気になる存在なのだと思うが、現状、私への迷惑メールは増えも減りもしないで毎日欠かさず届いている。減らないのはしかたないとして、増えないのは、スパム送信の業界にも「定員」のようなものがあって、一つのニッチにあまりたくさんの業者が参入するとやっていけなくなるのかもしれない。
迷惑メールが面白いのは、それがすぐそこにあるアンダーグラウンドだからだと思う。かつてはどこかに見に行くか、あるいはほんのわずかな不運な人に届くだけだった、違法すれすれの商売、あるいははっきり詐欺である申し出が、メールとして今や毎日のようにうちに届く。こんなに多種多様な「騙しのテクニック」を普通の人が縦覧できる機会は、かつてなかったろうと思う。ただ、内容はというと、知恵をしぼって書かれているものも、なあんにも考えていないらしいものもあるが、まあ、もっと頑張りましょう、という点しかあげられないものが大多数である。
どこでも繰り返されている議論で、いまさら私が書いたってしようがないが、議論の前提として、こういうへたくそな迷惑メールが、へたくそなのに、そんなに多数の人が引っかかるとも思えないのに、それでもいつまでも減らないのは、やっぱりこれが商売になっているからだろう。つまり、ある人が、たまたま体調が悪かったりとかして迷惑メールに反応し、あるいはだまされて、リンク先をクリックするなどする。そして、少数ながらそういう人がいれば、迷惑メール送信者は立派に商売を続けていけるだけの収益が得られる。メール送信のコストはタダに近いので、それでよいのだ。
ここで話は変わるが、インターネットはタダに近い、という事情に関して、選挙活動をネット上で行うのを解禁したらどうか、という議論が、以前からよく聞かれる。
そもそもどうしてインターネットを使った選挙活動が禁止されているのか。これは、選挙期間中は政党や候補者のサイトが更新されなくなる、というようなことだが、厳密にはこれは法律(公職選挙法)でもって明確に禁止されているのではない。ウェブやなにかで候補者が情報を発信することが「文書図画の頒布」という、つまりポスターを貼ったり配ったりするものと同じと解釈されて、制限を受けているのだそうである。音声ならこれにあたらないということで、音声だけが流れるように作られた候補者のページがあると、話題になったこともあった。
これがヘンテコなことだというのは、「ヘンテコだが我慢しよう」と思うか「ヘンテコだからなんとかしよう」と思うかの差はあるとしても、たぶん誰でも分かっていることだと思う。そもそもどうして公職選挙法で文書図画の頒布が制限されているかというと、これを無制限にやらせると、お金を持っている候補者なり政党がどっさりチラシを印刷して配りまくる一方、お金がない候補者はそれができなくて不公平になるからである。今ならそれに加えて「地球にやさしくない」という理由も考えられそうだが、とにかく、そういう精神の法律であることは間違いない。
しかしインターネットとはそういうものではない。もしそうなら、たぶんどっかのマンションの一室でお兄さん数人でやっているに違いない迷惑メール業者からのものよりも、巨額の宣伝費を使える大企業からの宣伝メールのほうがよっぽど多くなるはずである。良かれ悪しかれ、誰でも無料に近いコストで情報発信できる、というのがインターネットの特徴で、これを文書図画と同じと考えるのはどう考えたっておかしい。おかしいので、そのうちどうにかなると思うし、実際に議論はされている。選挙活動に自由にインターネットを使えるようにするため、与野党で法律改正の準備がすすめられているそうである。
ただ、ここで一つ疑問がある。インターネットといってもいろいろある。メールでの選挙活動はどうなのか、ということである。
インターネットで選挙活動は、これからも一切できないようにするべきだ、という人はあまりいない(消極的な人はいると思うが、「できない現状が正しい」という明快な信念をもって、国民に広く理解を求めようと積極的な活動をしている人のことはあまり聞かない)。しかし、ネットを使った選挙活動が許可されたとして、その中で、不特定多数への選挙活動メール送付を許可するかどうかについては、議論が分かれているようである。迷惑メールと同じだし、なりすましが容易なのでやめるべきだ、という意見もある。メールでのうるさい選挙活動は反発を受けることが候補者側にもわかるだろうから、許可しても構わないのではないか、という意見もあった。
仮に、電子メールによる選挙活動が許されたとすると、やっぱり問題があるのではないかと思う。そもそも迷惑メールというものに対して、これだけ迷惑に思っているのに、減らないのはなぜなのか。百万人が迷惑に思っていても、一人か二人が反応すればそれでモトが取れるという仕組みにあるのではないか。だとしたら、誰に嫌われても候補者はどんどんメールを送るとか、そんな力学はこっちには働かないのか。
出会系サイトに誘い込むメールと選挙活動は違う、広く支持を集めることこそが目的なのだから、多数に嫌われる選挙活動はしないはずだ、という考えはある。もっともだと思うが、そういえばあの、選挙カーによる街頭の選挙活動。候補者の名前を呼ぶばかり、うるさいばかりで「あの候補者には絶対に入れないようにしよう」とみんなが心に誓う(そういう意見ばっかり見かける)あの選挙カーだって、いつまでたってもなくならないではないか。だとしたら、メールからの情報をもとに投票しようと思う人のほうが、迷惑に思う人よりも多い、という仮定は、そんなに突飛ではない気がする。事実として選挙カーは有効で、たぶん選挙カーのほうが迷惑メールより迷惑だ。
次の選挙には、インターネットが活用されているかもしれない。たとえ「なんでもあり」ということになったとしても、まずしばらくは、メールを使った選挙活動はなかなか一般化しないと思う。これは、たとえば私がどの選挙区に属しているか政党は知るまい、という事情によるものだが、こういうのはいずれ変わる。というより、どこかにネットに詳しい候補者がいて、その人がいったん決意すれば、選挙活動メール無差別大量送信を止めるすべはないのである。「お知り合いの同じ選挙区の有権者五人に転送ください」というような、チェーンメールが来たらあなたはどうするか。
いや、どうもしない、というだけのことだろうか。今と同じように、必要ない選挙活動メールはメールソフトのフィルタかなにかで弾けばよく、今の私のメール事情が致命的な打撃を受けるわけではない、という気がする。なんだか尻すぼみで申し訳ないが、えーと、今回、どうでもいいことを書いてしまったかもしれない。となると、あとは実現させるだけだ。例の送金指示メール問題で政府がインターネットの活用に及び腰にならないことを望むものである、などと政治的なことを書いて体裁を整えておくのであった。