穀物からアルコールを醸造して、それを人間が飲むと飲酒運転だが、車に飲ませても特になんということはない。適量ならガソリンがちょっと節約できて、温暖化防止に役立つ。
というのが、いわゆるバイオ燃料である。植物由来のエタノールをガソリンに混ぜ込んで、二酸化炭素の排出量を抑えようというものだが、やっていることはどうも、むかしから人類がやってきたところの「穀物の栽培」とそれから「酒造り」であって、特にバイオと言わなくてもいい感じがする。酒なら「酵母」にあたるものがバイオ的に特殊なのかもしれないが、そもそも農業と酒造自体、今まで特に言わなかっただけで本当はバイオなのかもしれない。あなたはバイオでしょうか。私はバイオです。父も母もバイオでした。
などとバイオ燃料にけちをつけている場合ではなかった。とにかく、今やトウモロコシを燃やして車が走る時代である。トウモロコシは実るときに空気中の二酸化炭素を吸収しているので、燃やしても空気中の二酸化炭素は差し引きゼロという理屈で、しこうして温暖化防止に役立つ。
さて、この複雑な人間社会に生きる私たちには、健全なバランス感覚というものが自然に備わっている。何かを聞いても、それをあっさり信じない、ということである。たとえば「恐怖の大王」だとか「一週間でみるみるやせる」だとか「庭に置くだけでモグラを寄せ付けない」等調子のいい言葉にだまされ続けて来た長年の経験から、こういう話を聞いても「それはすごいこれで温暖化問題もオール解決だ」というふうには考えないように鍛えられているのである。「一見うまい話だがなにか裏があるに決まっている」と考えるのが普通であり、うがったものの見方をする人はこのあと一気に「また科学者が政治家とぐるになってオレたちをだまそうとしている」まで行く。これはどちらかというと悪い習慣ではない。実際、バイオ燃料にも裏はあるのだ。そうやって穀物を燃料として消費することで、食べ物が不足し、農作物の値段が上がるのである。
そうであるとして何がいけないのか。タダで温暖化防止という考え方はひどく虫がいいもので、普通、そういう達成困難な目標に対して単純な解決策が存在することはない(これもバランス感覚だ)。むつかしいことに何らかのコストがかかるのは当然のことである。それが今回は食べ物の値段というかたちで現れるわけだが、これにいちいち文句を言っていては環境問題など解決不可能であるという気がしないではない。ただまあ、ものが食料だけに車は乗らないけどご飯は食べる人というのがいっぱいいて、そういう人たちが飢えに苦しむのは申し訳ない、というのはそのとおりかもしれない。
いずれ技術が進むとタデ食うバイオな奴が発明されて、人間サマや家畜サマが食べる部分ではなく、本来だったら捨てていた茎とか葉っぱとかそういうのを使って燃料が合成できるようになるとされている。また、そうして作られたエタノールも、今はまだガソリンへの添加物みたいな扱いだが、こちらも徐々に化石燃料の比率を減らしてゆくことができるのではないか。そうすれば地球温暖化は防止できるし農作物は安くなるしで(いままで捨てていたのが売れるようになるので、当然作物自体も安くなると思われる)いいことずくめである。
うちにも、そんなに広くはない庭があるが、この雑草とか、芝ののびた部分だとか、庭木の不要な枝だとかは、おそろしい量が出る。いや、庭にあるぶんにはさほどの量にも思えないのだが、いったんこれを燃えるゴミとして出そうとして、ふと一袋三十円の有料回収ゴミ袋に入れ始めると、とたんにこれがとてつもない量に思えてくるのだ。なにしろ、普通に生活していると一週間に二袋で済む燃えないゴミの袋(45リットル)が、庭を片付けるたびに四、五枚消費される勘定になるのだ。重量ではなく容積なので、でもって枝なんかは実にかさばるので、こういうことになるのだと思うが、さすがにこれは頭に血が上る。絶対に有料でなんて出すもんかこの税金泥棒、と決意するのだが、それは水戸市の思うつぼかもしれない。
ではどうするのかというと、今は庭に穴を掘って埋めているのだ。ついでに生ゴミなんかも埋めたりして実にゴミの減量に役立っているのだが、これが庭を富栄養化させ、さらにはミミズを繁殖させ、そしてまた庭に数匹住んでいるらしい「もぐら」を養う栄養となっていることは、まず間違いない。せっかく固定された二酸化炭素を、あたら分解させてもとの空気中に戻しているばかりか、もぐらを頂点とした豊かな食物連鎖を形成せしめているのである。いかん。これはいかん。なにしろもぐらのやつ、甘く見ていたら、せっかく植えた芝をトンネルを掘って全部ひっくり返しやがるのである。ノーモアもぐら。
私は思うのだが、バイオ燃料というものが進んでくると、将来こういう草みたいなのでもエタノールができ、それで車が走るということもあるかもしれない。庭に「バイオ燃料タンク」というものができて、そこに枝なり生ゴミなりを入れておくと、しばらくするとアルコールが醸造されるのだ。それを車に飲ます。人間が飲むと飲酒運転だしおいしくなさそうだが車に飲ますと燃費がよくなって温暖化防止に役立つ。エネルギー的には大したことないのでそれで燃料代がかからなくなる、ということはなさそうだが、そうしてうちの庭がだんだん不毛な感じになってゆき、最終的にモグラもいなくなれば一石二鳥なのでぜひ導入したい。
さて、そういうことでいうと、昔、木炭を燃やして走るバス、みたいなのがあった。木炭は石炭と違って化石燃料ではないので、二酸化炭素の収支としてはバイオ燃料と同じことだ。この際木炭バスは大いに見直されるべきである。今の技術で備長炭を燃やして走るF1カーなんかを作ればどうか。