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 商品名のつけかたとして「はばたきプラン」とか「やさしさコース」のような、特に意味はないものの耳に心地よい単語を使って、あたりさわりのない名前がつけられていることがあります。大きなメーカーの主力商品なら「ブラビア」だとか「プリウス」だとか、意味がわからないけれども耳に心地よい、という感じの名前がつけられるのでしょうが、それより一段、上か下かというと、申し訳ないですが、下の感じ。意味がわからないほうが上、というのも変だと思いますが、やっぱりそうだと思うのです。

 まあ「ふるさと納税」みたいなものだな、と思われるかもしれませんが、厳密に言うと、この手のネーミングは意味があるのと、ないのとに分けられるでしょう。「おふくろ定食」「けんこうランチ」には言葉から連想される付加的な意味があります。大量生産的でないとか、カロリー控えめとか。ここで話題にしたいのは、そういう意味のほとんどないものです。「かがやき公園」とか「ながいきクラブ」とか「きらめき学園」とかそんなのです。

 さて、あなたが散髪屋さんだったとして、自分のところの散髪に、なにか名前をつけて差別化をはかりたい、と思ったとします。うちの車検は「がんばる車検」だからがんばって車検していますよというような宣伝に使うわけですね。よく考えてみると、まあ、がんばらないでテキトーな車検をされてはたまったものではないのでつまりこのネーミングにはあまり意味はないわけですが、まあその、いわばキャッチフレーズをつけたい考えたいのです。最近は千円カットが台頭してきたりなど、散髪屋もなかなか楽ではありません。そこいらの千円カットとは違う、プロが腕を振るうプロのカットをアピールする意味で、何か名前をつけるといいのではないでしょうか。

 そこでこれです。
「まごころカット」
 ああよかったこれで行こう、と思う前に、いや待てよと。思わなければいけません。これでは、まごころをカットしているみたいだぞと。そうではないでしょうか。もう一回見てみましょう。
「ときめきカット」
 えっ、いいじゃんまごころカット、と思われた方も、どうでしょう、言われてみると、そんな感じがしてこないでしょうか。ときめき当社比50%オフ、みたいな言葉に、なっているぞと思われるのではないでしょうか。
「げんきカット」
「にこにこカット」
 そうです。なんとかカットは、なんとかをカットする言葉なのです。なんということでしょう。どこにでもくっつきそうないい言葉、元気が、にこにこが、一歩散髪屋に足を踏み入れただけで、たちまちカットされて、なくなってしまうようではありませんか。散髪屋に行きます。「げんきカット」という看板があがっています。勇躍そこに入って「おやじ『げんきカット』頼むぜ!」と声をかけて三十分後。出てきたら、どうなっているか。そうです元気がカットです。元気もにこにこもすっかりなくなって、抜け殻のようになって出てきてしまうようではありませんか。ぶるぶるぶるぶる。だめです。こんなのはだめです。

「悲惨カット」
「災難カット」
 だからといってこれは考えすぎでした。いい言葉とくっつけて駄目なら、ここは発想の転換、反対に悪い言葉とくっつければいいんでないかい、と思いましたが、そういうものではないみたいです。たいへん不思議なことに、げんきカットだと元気がカットされる感じがするのに、災難カットだと災難がカットされるような感じはちっともせず、逆に災難にあうカットのような気がしてなりません。なぜでしょう。散髪屋は災難に遭いやすい場所のような気がなんとなくするからでしょうか。いや、歯医者ほどではない。大丈夫、悪くても丸刈りになる程度です。

 ほかにも考えました。どうでしょう。
「カロリーカット」
「コストカット」
 いや、そういう言葉は、もうありました。これはちゃんとカロリーを、あるいはコストをカットしているような感じがしますが、だからといってお客が散髪に来てくれるかどうかは別問題です。だってあなた、カロリーカットに行きたいですか。コストカットに熱心な客は、千円カットに行くでしょう。無駄です。こんなキャッチフレーズこそカットすべきです。いや、うまいことを言っている場合ではない。

「キットカット」
 それは商品名です。チョコレートの名前です。春には受験生が好んで買います。ただ、これは確かにちょっといいかもしれない。「きっとカット」ととられてもそんなに被害はないですし、きっとカットってどんなカットと思ってもらえるかもしれません。意味がないほうがいいのかもしれない。惜しむらくはチョコレートの名前のパクりだということですが、こういうのでほかにはないでしょうか。

「マスカット」
「コネチカット」
 だから、駄洒落にしてはいかん、と言っているのに。いや、言ってませんでしたっけ。ではどうしたらいいのか、よいアイデアも浮かばないまま、ぽこぽこと去ってゆく。そんなことでせっかく読みに来てくださった方が満足できると言えるでしょうか。「満足感カット」とか「オチはカット」とか言い出すんじゃあるまいなというあなたの冷たい顔が目に浮かびます。いやあ冷たい。実に冷たい。人情カットの世の中です。しかし、ぶどうにはなんの恨みもありませんが、ちょっと大量生産的で千円カット的ですね。マスカットじゃあ。


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