変身万歩計

 各務がいつも身に付けている万歩計。この数値が一万を超えていなければ、各務はスピードマンに変身することはできない。

 特に原理的には制約のないはずの各務の「変身」にこのような制限が課せられている理由は、各務の健康状態にある。持病があるわけではないのだが、運動不足から来る体力の低下は、各務の改造以来、おおむね平和だった四〇年近い年月の間に、体内のナノマシンの活動に支障をきたすまでになっている。変身万歩計は、このことを重視した異星人ポレポレが、各務に支給したものである。

 技術的には、地球上の技術を大きく超えるものはない。各務の体の振動を検知し、それを歩数に換算してカウントするものである。ただし、万歩計を腰から取り外して手で振ったり、他人に取り付けたりというような不正ができないように、カウント機構にはやや高度なセンサーが備えられており、各務の歩行や走行以外の振動を厳しく除外する。また、ナノマシンでモニターされる各務の血液の状態をフィードバックすることで、特にアルコールや濃度の高い脂肪分の摂取を検知すると、カウント数を減少させたり、零に戻す機能がある。各務にとっては厄介でしかないこれらの機構であるが、これら全ては異星人ポレポレの各務に対する(半ば打算的な動機からのものであるとはいえ)愛情からくる気遣いであり、このおかげで各務の体力が破滅的な低下を免れているのも事実である。


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