各務剛志・スピードマン

 各務剛志(かがみつよし)は、スピードマンである。幼いころ、地球を訪れた異星人に肉体改造を受けた彼は、スピードマンへの変身能力を手に入れたのだ。各務剛志の表の顔は、大阪府出身四五歳。平凡なソフトウェア開発会社の中間管理職(課長)である。死別した妻(量子、りょうこ)との間に高校生の娘が一人いて、恵子(めぐみこ)というその娘は悪い娘ではないのだが、父のことをやや煙たく思っている。

 スピードマンは、その肉体的能力の他に、いくつか隠された武器を体内にナノマシンの形で移植されている。普段の各務は外見上、うだつのあがらないサラリーマンだが、その真っ赤な血潮には宇宙人の超科学が流れているのだ。腰に取り付けた「変身万歩計」が各務の日常の運動によって一万を越えると、ナノマシンに指令が出され、スピードマンへの変身が可能になる。これは、変身が各務の肉体に大きな負担をかけるために考えられた異星人ポレポレの心遣いなのだ。

 スピードマンは、地球上では、わずか十数分しか活動できない。原理的に限界はないのだが、各務の体力がその程度しか持たないのだ。スーパーストリング・スクランブルブレードや、スクィーズドスペース・ジャンプを用いると、この限界時間はさらに短くなる。瞬発力はあるが持続力がない、それがスピードマンなのだ。そして、各務に今のところ、肉体を鍛える暇はない。

 各務は、スピードマンに変身したときこそ無敵のヒーローとして疑問も抱かずに戦っているが、その実、自分のスキルの相対的な低下、部下からの信頼の欠如に悩む平凡な中堅サラリーマンでもある。そして、何よりもこの世界を、量子と出会い、恋をして、恵子を育てた自分の人生があったこの世界を、純粋に愛しているのだ。第二一話で、自分が守ってきた社会に見捨てられる形になる各務だが、それでも、最終話では笑ってバグエンペラーとともに、死んでゆくのだ。


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